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不死身の男の喜劇性

『SISU シス 不死身の男』(2023年製作/91分/R15+/フィンランド)監督:ヤルマリ・ヘランダー 出演:ヨルマ・トンミラ、アクセル・ヘニー、ジャック・ドゥーラン、ミモサ・ヴィッラモ、オンニ・トンミラ

第2次世界大戦末期のフィンランドを舞台に、不死身の老兵とナチス戦車隊の死闘を描いた痛快バイオレンスアクション。

1944年、ソ連に侵攻されナチスドイツに国土を焼き尽くされたフィンランド。老兵アアタミ・コルピは掘り当てた金塊を隠し持ち、愛犬ウッコとともに凍てつく荒野を旅していた。やがて彼はブルーノ・ヘルドルフ中尉率いるナチスの戦車隊に遭遇し金塊と命を狙われるが、実はアアタミはかつて精鋭部隊の一員として名を馳せた伝説の兵士だった。アアタミは使い古したツルハシ1本と不屈の精神を武器に、次々と敵を血祭りにあげていく。

タイトルの「SISU(シス)」とはフィンランドの言葉で、日本語への正確な翻訳は難しいが、すべての希望が失われたときに現れるという、不屈の精神のような意味合いを持つ。「レア・エクスポーツ 囚われのサンタクロース」のヨルマ・トンミラが主人公アアタミ、「オデッセイ」のアクセル・ヘニーがヘルドルフ中尉を演じた。監督・脚本は「ビッグゲーム 大統領と少年ハンター」のヤルマリ・ヘランダー。

同じフィンランド映画でもアキ・カウリスマキとは趣が違うが一つだけ共通点があった。シスも不死身ということは機械的であり、感情を顕にしないというのも『『過去のない男』と似ていた。シスの場合自己修復機能が付いたロボットと考えれば納得がいく。まあすでに人間ではないよな。

相手のナチスも人間としての感情を失ったシステムの歯車としてロボット兵器並だった。ロボット同士の戦いと思えば現在の戦争を暗示しているのかしれない。ただスプラッター趣味は人間の欲望なのか?復讐心がそうさせるのか?まともに見ようとすると笑うしかない。その部分で喜劇的でさえあると思うのだ。

この映画で戦争の悲惨さを学ぼうなんて思う人はいないと思う。カタルシスを求めてスプラッターシーンを見つめていられるのは、それが偽物でありどこか安心した部分があるからだと思う。それはあまりにも現実で悲惨な死体を見せられている世界をファンタジーにしておこうとする映画なのかもしれない。涙を流すより大いに笑える映画なのだ。

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