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けっこう腹が立つ映画だったが良かった。

過去負う者』(2023年/日本/125分)撮影・録音・脚本・編集・監督:舩橋淳 出演:辻井拓、久保寺淳、田口善央、紀那きりこ、峰あんり、満園雄太、みやたに、伊藤恵、小林なるみ、平井早紀


『ある職場』の舩橋淳監督が「ドキュメンタリー×ドラマ」の手法で迫る現代社会の暗部
日本の受刑者の再犯率50%のワケと背後に横たわる、現代社会の不寛容を問いかける渾身の一作

受刑者向けの就職情報誌「CHANGE」編集チームは、出所者の就職あっせんと更生支援をしていた。
チームのひとり藤村(35)は、ひき逃げによる殺人罪で10年服役した田中(34)を担当し、中華料理屋に就職させたもののキレやすい性格でトラブル続き。女子児童へのわいせつ行為により2年服役した元教師・三隅(37)は、職に就いたとたんすぐ消息を絶ち、チームを落胆させる。薬物常習で2年服役後出所した森(30)は清掃会社で働くものの、長年続くコミュニケーション障害でなかなか社会にフィットできない。
社会復帰に向けてもがき苦しむ元受刑者を目の当たりにした藤村らは、アメリカの演劇による心理療法・ドラマセラピーを提案。元受刑者たちと稽古を重ね、舞台『ツミビト』を公演するまでに至るのだが…。舞台初日の観客の反応は、彼らにとって全くの予想外だった。


日本の刑務所満期出所者が5年以内に再犯し、再び入所する確率は約50%。「世界一安全な国」を標榜しながら、一体、なぜ出所者は再び罪を犯してしまうのか?背景には、再入所者の7割が無職だったという事実が示すように、元受刑者は「就労」がしづらいという大きな問題が横たわる。単にお金を稼ぎ、安定した住居を得るというだけでなく、他人から認められる意味でも社会復帰に重要とされている就労の問題は、数多ある映画の中でも、これまで大きく取り上げられることはなかった。
本作は、受刑者の採用を支援している実在の就職情報誌の活動にヒントを得て制作された劇映画である。監督は劇映画からドキュメンタリーまで幅広く手がける舩橋淳。実際のセクハラ事件に基づいて役者との即興劇で描いた前作『ある職場』(2022)と同様、自らプロデューサーも務め、前作とほぼ同じキャスト・スタッフで、前科者の社会復帰に横たわる問題を描いた。その先に見据えるのは、社会の不寛容が新たな犯罪を生んでしまう悪循環を変えたいという想い。あえて台本は用意せず、現場で俳優と演技を煮詰めてゆく「ドキュメンタリーXドラマ」の演出手法は、観るものに震えるようなリアリティをもたらすだろう。

けっこうリアリティのある映画だった。役者が脚本通りのセリフではなく演技の中で即興で演じるというのは最初は素人ぽいと思っていたが、次第に映画に集中してしまった。それは役者が自身が映画の中のキャラに成りきっていたというより憑依していく感じだった。特に交通事故死のひき逃げで刑務所に入っていた人には感情移入してしまった。

それは自分がかつてトラックドライバーだったからだろう。同僚でも事故死させた人がいたが、かれはその後に仕事が出来ないで引きこもりになってしまった。交通事故の場合一瞬の気の緩みで人を殺めないとも限らない。特にトラックドライバーは急かされているように感じるから。はっきり言って事故は自己責任を取らされるのだ。あまり会社もケアーしてないと思う。いやいろいろ補償問題とか出来ない部分があるのかもしれない。特に事故死させた場合には。

映画の中で元受刑者たちが演劇療法みたいなものをやって観客に見せるのだが、それをファンタジーと言って責められるシーン。かなり熱くなった。客席と舞台では分断があったと思う。観客はいつでも傍観者であり、それを自身のこととして考えないのだ。その分断はどうしてあるのだろうと思った。想像力の欠如だろうな。観客側も役者が演じていたわけだが、どうしてそういう傍観者みたいなことが言えるのか腹が立った。事件を起こさない人はたまたま恵まれた位置にいるだけなのに当事者でなければ何でも言えるという態度がネットの炎上を見ているようだったのだ。

演劇療法とか演じているわけだから優等生的になると思うのだが、そこに意味があると思えないのは、社会が歪んでいたら更生なんて出来ないと思ってしまう。その歪んでいる社会に合わすことが更生と言われることなのだから。清掃に入る時に「やらせてもらいます」とか言うのが信じられなかった。人権のなさというか、彼等に人権はあるのだろうか?ほとんどの仕事がそういうことなのだが、それはやっぱ社会がおかしいのではないか?異常にお客様は神様意識の世の中になっていて、下に見る社会的構造が出来上がっているのが、舞台と観客席との討論に出ていたと思う。何様なんだと思ってしまった。お前らの家族が絶対事故を起こさないと言えるのか?かなり腹が立つ映画なんだけど、そういう分断社会なのだと思う。

今は退職したので嫌なストレスはないが、ほんとにストレス社会なんだよな。どうしてこんな社会になってしまったのかいつも思う。

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