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余裕がない社会は、真面目な人ほど馬鹿を見る

『夜明けまでバス停で』(2022/日本)監督:高橋伴明 出演:板谷由夏/大西礼芳/三浦貴大/松浦祐也/ルビーモレノ/片岡礼子

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解説/あらすじ
北林三知子は昼間はアトリエで自作のアクセサリーを売りながら、夜は焼き鳥屋で住み込みのパートとして働いていたが、突然のコロナ禍により仕事と家を同時に失ってしまう。新しい仕事もなく、ファミレスや漫画喫茶も閉まっている。途方に暮れる三知子の目の前には、街灯が照らす暗闇の中、そこだけ少し明るくポツリと佇むバス停があった。 一方、三知子が働いていた焼き鳥屋の店長である寺島千晴は、コロナ禍で現実と従業員の板挟みになり、恋人でもあるマネージャー・大河原聡のパワハラ・セクハラにも頭を悩まされていた。誰にも弱みを見せられず、ホームレスに転落した三知子は、公園で古参のホームレス・バクダンと出会う…。

coco映画レビュアー

まだ記憶に新しい事件の映画化。すぐに映画製作に取り掛かったのだろう。それだけ今の社会状況を伝える事件でもあったし、その背景として派遣社員の地位の低さ、外国人労働者問題、コロナ禍の経済問題と浮き彫りにしていて見ごたえがある。ちょうどオリンピックの始まる前で2020年オリンピックの文字が写し込まれるが、ほんとあれはなんだったのだろう?と疑問に思わざる得ない。

事件はあらまし知れているが映画はすべてが事件通りではなく、そこも面白かった。柄本明の元爆弾犯や根岸季衣のパンク・ババアのB級映画感がいい。あと外国人労働者役で懐かしのルビー・モレノが出ていたが全盛期の面影が全然ないけどけっこう重要な役だった。俳優陣も面白いメンバーで、久しぶりの高橋伴明監督の映画を見たが今風というよりは、70年代から80年代頃の尖った映画スタイルのエンタメ映画になっていた。事件そのものや内容は非常に刹那いものがあるのだが、笑えるシーンもあって退屈はしない。

女性同士の繋がりがシスターフッドには成りにくいのは、中間管理職の辛い立場にいる女性社員を見せられるからだろう。先日見たアメリカ映画のサポート・ザ・ガールズのマネージャーは中間管理職だったが楽しそうだった(オーナーが駄目なところは似ているが、女性社員との繋がりは出来ていた)。日本のキャリア・ウーマン(言い方が古いが)はどうしても会社寄りになってしまうのは何故だろう?社員からも仲間外れになってしまうのだ。真面目なだけに痛々しい。結局彼女も辞める覚悟で、派遣社員たちの権利を守ったのだがやはり組合活動的な意識が日本にはないように思える。あの道楽息子のマネージャーは酷いけど今の会社にいそうなのがなんとも。男尊女卑のシステムが日本の閉鎖性を生んでいるとも言える。

今回は真面目過ぎる人たちが、その真面目さ故にいびつな社会を生み出していることに気付かされる。女性を襲った男性も普段は町内会でいい人っぽいのだった。

関係ないが香川照之の映画が公開される予告編を見たのだが、なんかいいのかなと思ってしまった。

爆弾はつくらなくてもいいが、もう少し不真面目な人がいたほうが風通しがいい社会になるだろう。香川照之は別だが。



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