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『火垂るの墓』の姉妹ヴァージョンの『戦争童話集』

アニメ野坂昭如『戦争童話集』

1. 「ウミガメと少年」

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平和だった沖縄が激戦地となったため、テツオは疎開することになりました。疎開先で友達になったノリオと花子と楽しい日々を過ごしていたある日。米軍の空襲が激しくなり、テツオの目の前で二人は命を奪われてしまったのです。一人でガマ(自然壕)に逃れたテツオ。ふと浜辺を見ると、砲撃の中、産卵するウミガメが・・・。ノリオと花子と「いつか一緒に見よう」と約束したウミガメの産卵。その卵を砲撃の犠牲にならないようにとガマへ移し、孵化するよう大事に育てていくテツオでしたが・・・。

これは文庫本野坂昭如『戦争童話集』には入ってなかったのでアニメ化のためのオリジナル。沖縄戦を入れたかったのかもしれない。沖縄の平和な海の象徴としてのウミガメ。ウミガメが産卵に来る砂浜も戦争によって破壊される。沖縄の墓が避難場所になるとか沖縄らしい特徴も(サトウキビもそうだった。)。森山良子「サトウキビ畑」のBGMが欲しいかも。


2. 「凧になったお母さん」

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昭和20年夏、B29が落とした焼夷弾(しょういだん)、街を火の海に変えてしまいました。逃げ惑う人々・・・そんな中、カッちゃんはお母さんに連れられなんとか近くの公園に避難することができました。しかし、火は次第にふたりに忍び寄り、カッちゃんの体は熱さでカラカラに。「熱いよう」と訴えて意識を失うカッちゃん。お母さんは、自分の体から出る汗や涙でカッちゃんの体を潤してあげるのですが、体中の水分をすべて与えきったお母さんは・・・。

文庫本では一番悲惨な話だっただけにアニメではどう表現されるのかと興味を持った。焼夷弾空襲の絵は幼児風になっているような。アニメの方が表現としては柔らかくなっているのかな。話を膨らませすぎて肝心のところの印象が薄まってしまう印象だ。『火垂るの墓』と似ているところはあるから、ラストは、あくまでもファンタジー路線。

3. 「小さい潜水艦に恋をしたでかすぎるクジラの話」

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南の島の沖合に、一匹のクジラ、クー助がいました。クー助は大きくなり過ぎた体をひどく気にして、女の子となかなか仲良くなれませんでした。ところが、日本軍の潜水艦をクジラだと思いこみ、恋をしてしまうのです。その潜水艦に乗るのは、低い背を気にして女の子に気持ちを伝えられない少年、幸多。彼は、かつて海に落ちたところをクー助に助けられた少年でした。敵駆逐艦が近づきつつある中で、一途なクー助は再び幸多を救うことになるのですが……。

もっともファンタジー化させた作品だと思う。このへんだと戦争の恐怖心はそれほどでもない。最後にクジラが死ぬのだが。クジラの話は大人子供関係なく好きだよな。このクジラは鰯鯨。雄の方が雌よりも一回り小さく、大きい雄は雌に好かれないらしい。それで潜水艦に恋してしまうのだが。メルヘンチックかな。これも「空飛ぶクジラ」のBGMが欲しい。

4. 「ぼくの防空壕」

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軍部が防空壕造りを奨励していた頃、ゆうちゃんの家にも、お父さんと一緒に造った防空壕がありました。ある日、防空壕に避難していたら、突然壁の向こう側から出征しているお父さんが現れます。驚きながらも壁を通り抜けると、そこは戦場でした。お父さんと一緒に戦うゆうちゃん。目が覚めればいつも防空壕の中でした。そうして、お父さんの戦死公報が届いた日も、終戦が決まった日も、防空壕の中ではいつでもお父さんに会えたのですが……。

防空壕なんて実際に作ったこともなければ見たこともない者には言葉だけでは想像しにくいというか、横穴式のものしか想像できないと思う(祖父の家の崖の穴は、まさにそれだったが)。家の下に穴を掘り、防空壕を作っていたと初めて知った。そうした戦時を体験した者でなければわからないことがわかりやすくアニメ化されていると思う。まさにこの話は、防空壕作りによって、父と息子の間に出来る絆と、それを断ち切ってしまった戦争という悲しみがあると思う。実際に夏休みには父親と共同作業的なもの作りを体験するのだろうから。

5. 「焼跡の、お菓子の木」

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太平洋戦争も終盤に迫った頃のことです。太一は空襲で家をなくしても、いくらお腹を減らしても、笑顔を絶やさずに暮らしていました。ある日、体の弱い友人・春男から1冊の本をもらいます。そこには、“パンの木”1本あればみんなお腹いっぱい食べて暮らしていけると書かれているのでした。もしかしたら“お菓子の木”だって…と夢を見る太一たち。しかし、空襲はますますひどくなる一方です。太一たちは逃げ惑い、春男の家にも火の手が迫ります。はたして“お菓子の木”は夢でしかなかったのでしょうか……。

お菓子の木なんてグリム童話のファンタジーの話なのだが、見事に日本の戦争ファンタジーになっている。バームクーヘンが「お菓子の木」というドイツ名であったこと。さらに検索すると広島ドームの会場で最初に売られていたを知った。

私にとってはバームクーヘンの癖のある匂いが苦手な食べ物であったのだが、それはすでにケーキというものは、その日に食べなければならないショートケーキで育ったからである。干からびたバームクーヘンを食べた記憶は、持ち合わせていないが、それを埋めて木になるという発想もなかった。その発想ができるのは飢餓を体験した作家ならではものだろうか?

6. 「ふたつの胡桃」

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中西彩花はごく普通の小学生。飼い犬ライアンとの散歩の最中に、東京大空襲の3日前の世界にタイムスリップしてしまいます。行き場のない彩花とライアンを助けたのは同い年の少女、友子でした。早く元の世界に戻れるようにと、対になった胡桃の鈴を一つ彩花にくれる友子。それは、戦死したお父さんが作ってくれたものでした。しかし、その願いも叶わぬまま、彩花は運命の昭和20年3月10日を迎えるのです……。

アニメ『戦争童話集』のオリジナル作品だが、これが一番おもしろかった。それは現在の娘(ケータイ世代)と戦時の娘の交流を描いたタイムスリップものになっているからだ。

現在の娘が過去の戦時に紛れ込んで様々なことを経験する。それはよくある映画のパターンでもあるが、ここは愛犬と共にタイムスリップしてしまうというのが面白い。

戦時に飼い犬を戦争のために供出するという今ではそんなことがあったのかと思える民法?が出来てしまっただ。それは兵隊のために皮を剥いでコートにするとか、軍用犬として自爆攻撃に使うとか。そういう役目と共に空襲で野良犬化を防ぐ目的もあったのだと思う。戦争は人間だけでなく、周りにいる動物たちの悲劇でもあるのだ。『戦争童話集』にはそうした話が多い。


7. 「キクちゃんとオオカミ」

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昭和20年、満州。敗戦とともに日本人たちの退却が始まりました。日本へ帰る道のりで、幼いキクちゃんは病に侵されてしまいます。家族に置き去りにされ、弱りきっていたキクちゃんを救ったのは、一匹のオオカミでした。オオカミの看病のおかげで元気になったキクちゃん。しかし、次第に食糧はなくなっていきます。オオカミは危険を承知で、人間の町へ連れていくことにしたのですが……。

これも「満州開拓団」の姿をわかりやすくアニメで伝えていると思う。日本の敗戦が決まって、「満州開拓団」を守るはずの関東軍は先に逃げてしまい、自力で満州から脱出しなければならなかった。その一団は女子供を中心とした弱者の難民だったわけだ。日本にも難民時代があり、それはどの難民よりも悲惨な歴史を背負っている。自らの弱った子供を置き去りにしたり、殺さなければならない母親たちがいた、それはフィクションでもなければ嘘でもない。ただそういう人たちは語らなかった。自らの恥を喜んで語る者がいるだろうか?それはソ連兵のために慰安婦として若い娘を供出したという「満州開拓団」の歴史(アニメではそこまでは描かれないが)も最近のドキュメンタリーで明らかにされている。そういうことは目をそむけてしまいがちだが、日本の軍国主義になされたことをこのアニメシリーズでは知ることが出来るのだ。

8. 「青い目の女の子のお話」

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豊かな土佐山中の村。しかし、ここにも、肉親の負傷や死亡のせいで、「鬼畜米英」という意識は確実に根付いていた。そんな村の小学校に、英子という少女が横浜から転校してきた。父がアメリカ人で青い瞳の英子に、同級生たちは苛めを隠す風もない。担任の秋子以外は、教師たちも子供たち同様の目で英子を見る有様だった。だが、転校前日に英子を見かけた健太は、彼女に対する好奇心があった。見て見ぬふりができず、捨てられた英子の父親の形見のペンダント探しを手伝う健太。それを同級生に見とがめられ、健太ははやし立てられる。だが、活発な英子は、健太とその友人たちの遊び場に来て、男の子顔負けの行動力を見せ、いつしか健太の友人たちとも仲良くなっていった。そんなある日、健太の親友の則夫の父が負傷して戦地から帰って来た―。

これもアニメ版だけにある戦争ファンタジー。文庫本ではアメリカ人捕虜が空襲の中で取り残され、住民らから暴行を受けるという話があった。それをアメリカ人のハーフとすることで、日本人の子供との間に起きる差別問題。それは現在ではどこの小学校でも問題化される。その根本的な問題は日本人の民族意識にあるものだとするのだろう。それを教えたのは教育なのである。

しかし、ここに出てくる子供たちはそうした矛盾に気が付き、疎外された女の子を助けようとする。それは勿論ファンタジーの中でのことではあるが、それが童話としての完成度も高い。戦争がない島というのが、すでに大人になってしまうと見いだせないのだが、未来ある子供たちには見出してもらいたい世界なのである。野坂昭如もそんな夢を持って『戦争童話集』を語ったのではあるまいか?

このアニメでキーポイントのなるのは女の子が歌う日本語化されたアメリカ民謡である。その歌が軍歌に押しつぶされてしまう時期の話なのである。

野坂昭如『戦争童話集』


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