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氷の世界に白いスケート靴を残して

TOCKA[タスカー]』(022年/日本/119分)監督:鎌田義孝 出演:金子清文、菜葉菜、佐野弘樹、イトウハルヒ、新井田心咲、小林なるみ、清水祐貴子、

あなたは、ヒトから「殺してくれ」と頼まれたことはありますか?
北海道、国境の町。優しい殺人者たちの物語……

国境の町、根室―。ロシア人相手の中古電器店を営むその男(章二)には、「死にたい」理由があった。
自死ではなく「殺されたい」と願う男は、シンガーの夢を諦め、生きる意味を失った女(早紀)と、先の見えない生活に疲れていた廃品回収業の青年(幸人)と出会う。男の事情を知った二人は、希望を叶えようと計画するのだが――。

本作は、死を決意した男が、自分を殺してくれる人を探す彷徨の旅を描く人間ドラマ。三人はそれぞれの過去を見つめながら、男の死に向き合っていく。男は望みを叶えられるのか?日常と非日常の間で翻弄される人間の運命の残酷さ、滑稽さ、切なさ、そして生のためのささやかな希望を感じさせる骨太な映画が誕生した。

監督は、『YUMENO ユメノ』以来、17年ぶりに長編映画に挑んだ、鎌田義孝。 出演は、金子清文(『深夜食堂』シリーズ)、菜葉菜(『夕方のおともだち』)、佐野弘樹(2022年度後期 NHK 連続テレビ小説「舞いあがれ!」レギュラー出演。)、ほか、松浦祐也、川瀬陽太、足立正生など。 音楽は、ヴァイオリニストの斎藤ネコ。撮影は、西村博光。16ミリフィルムカメラ(ARRIFLEX SR3)で、根室、釧路、室蘭の撮影を敢行、音声はあえてモノラルで仕上げている。

TOCKA(タスカー)とは、ロシア語で憂鬱、憂愁、絶望、などを意味し、その反意として、郷愁、憧れ、未だ見ぬものへの魂の探求、などの解釈がある。

息子が病死したために絶望した妻を殺してしまう(自殺幇助)男の死に様(生き様)を描いて、それに関わる目的を見失ったフリーターの女性と底辺のブラック仕事をする若者のドラマ。その登場人物も面白いが自殺願望の男の死ねなさはベケットの後期の作品を連想する(「消尽したもの」)。

そういえばドゥルーズも最期は自死を選んだのだしゴダールもスイスで自殺幇助を受けている。そういう地位にない男だが絶望した状態から終わりが見えない状態はベケットの喜劇でもあるような映画であった。

たまたま自由律の尾崎放哉の伝記本(伝記が電気と変換された、そうだ彼の伝記だった)を読んでいたのだが、自由律の俳人としてギリギリの生活を送っていながらアル中でどうしようもない放哉が、人々の迷惑になりながら終の住処というべき小豆島で人生を終えていくのにどこか似ていると思ってしまった。放哉が残した自由律の俳句は尊いのだ。

それは絶望した男が一人娘の誕生日に送った白いスケート靴のように。


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