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病気を外敵として導く国家戦略

『隠喩としての病い・エイズとその隠喩』スーザン ソンタグ , 富山 太佳夫 (翻訳)

「聖書や『共産党宣言』やヒトラーの『我が闘争』の修辞の戦略を読み解くケネス・バーク。バルザックの中篇小説やファッションやレスリングの記号学的な仕組みを読み解くバルト。この二つの批評の範例のもとで、ソンタグは人間の生と死に直接からんでくる結核と癌とエイズの隠喩を読み解くのである。人間の体に起こる出来事としての病いはひとまず医学にまかせるとして、それと重なりあってひとを苦しめる病いの隠喩。つまり言葉の暴力からひとを解放すること、それをめざす彼女の批評は、ここでも啓蒙の動きとなって実現するのである。それは言葉の最もラディカルな意味において健康な批評となるだろう」(訳者あとがき)。
西欧の文化=権力が病い=病者におしつけてきた不健康な表象を批判し、自らの癌体験をもとに病いそのものを直視した本書は、卓抜な〈病いの記号論〉であると同時に、1980年代にひそかに進行していた一つの知的活動を代表する成果、今なお知的刺戟の源でありつづける古典なのである。

『隠喩としての病』は実際にソンタグが癌にかかって社会からはじき出される体験を通して、結核(ロマンチシズム的隠喩)、癌(戦争的隠喩)を過去の文学作品を紐解いてそのように解釈することへの弊害について論じた。

結核はロマン派の文学と寄り添いやすい。かもするとヒロイズム的なロマンチシズムに陥ってしまう。そのことが癌との闘いにも言えて、むしろソンタグがその闘争へと論説をはればそれだけ悲劇的様相がその文章に出てくるので分かりにくさがある。

それをソンタグ自身に負わされている「スティグマ」(聖痕)として書かざる得ない刻印としての手記である。

「軍事的な隠喩はある種のスティグマを押し付け、さらにすすんで、病気の人々にもスティグマを押し付ける。私に「隠喩としての病い』を書かせたのは、癌にかかった人々がスティグマを押し付けられるという発見であった。」

疫病が外からやってくる病名を別の場所から来るとすること。例えばトランプがコロナ・ウィルスを中国ウィルスと呼ぶように。この愛国主義の抜きがたさについて、自分たちではないものと、異質の者と同一視された悪の概念そのものに根ざしている。悪と判定されたものは汚染源とみなされる。

「かつて病気に戦いを挑んだのは医者であったが、いまでは社会全体である。要するに、戦争というものが集団のイデオロギー的動員のための機会になってくると、「敵」の打倒を目標としてかがげる改善キャンペーン全体に使える隠喩として、戦争という概念が有効になってくるのある。」
「戦争とはいかなる犠牲も当たり前のものになる緊急事態なのだから。しかし病気に対する戦争は、研究にもっと熱意を、もっとお金をという掛け声に留まらない。近代的戦争場合の敵と同じで、とくに恐ろしい病気が外から来る「他者」とみなされるさいの方途を、隠喩が提供するのである。」

現在のアメリカ・トランプ政権がやっていることがこのような戦時国家体制であるということ。それなのに一向にコロナ・ウイルス感染者が減らず増え続けているのだ。さらに中国への責任転嫁と自国への医療政策の怠慢(おオバマケアーの廃止)が医療崩壊を招いている。そのはけ口がアジア人差別主義の蔓延を招いている。(2020/04/04)


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