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「革命狂詩曲」はブラバンで

『アンダーグラウンド』(1995年製作/171分/フランス・ドイツ・ハンガリー合作)監督エミール・クストリッツァ 出演ミキ・マノイロヴィチ/ラザル・リストフスキー/ミリャナ・ヤコヴィチ/エルンスト・ストッツナー

第二次世界大戦中、ドイツ軍に侵略されたセルビアの首都ベオグラードに住む武器商人のマルコは、レジスタンス活動を行うために市民を率いて地下に潜伏し、そこで武器を製造させて巨万の富を築きあげる。そして大戦が終結した後も、彼は市民にそのことを告げず、せっせと武器を作らせ続けていく…。
サラエボ出身のエミール・クストリッツァ監督が、バルカン半島の情勢が緊迫する90年代半ばに作りあげ、カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した問題作。シニカルで滑稽な作風のなか、哀しく愚かでありながらも生き続けていく人間への賛歌を露にしていく171分の力作でもある。クストリッツァ映画に欠かせないジプシー・バンドの音楽も効果的だ。(的田也寸志)

全編に響くブラスバンドのバルカン・ミュージックがいい。ミュージカルなんだと思った。音楽は民族的になるがメタ・フィクションにしているところが面白い。戯画的な戦争映画。バルカン狂詩曲。

ハチャメチャな展開だがユーゴの混乱の歴史を描いている。最初のナチスによる動物園空襲のシーンから度肝を抜かれる。そして狂気の一族の物語。実写フィルムに映画を被せたるマジック・リアリズム。撮影シーンを映画に組み込んだりするメタフィクション映画でもある。

第二次大戦からユーゴ内戦までをマジックリアリズムとバルカンブラスの音楽が交差するスペクタクル(叙事詩的)な映画。当時観たときは驚きだったが、やっぱバルカンブラスが最高過ぎる。銃を楽器に変えてしまえば世の中良かったのにとも想える。ブレヒト劇の影響もある感じ。

主人公が正当性のあるパルチザンではなく任侠的なギャングと変わらない。最近読んでいる中国史なども中国革命はそんな輩が多かったとか。日本でもアナーキストは任侠世界だった。その展開が権力者となった者とそれを知らぬまま地下世界で生き続ける者とを描いていて面白い。ドタバタ喜劇の映画だが、まさしく映画史に残る傑作作品である。

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