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シン・短歌レッス80

紀貫之の和歌


夏の夜のふすかとすれば郭公(ほととぎす)鳴くひと声にあくるしののめ                紀貫之

『古今集 夏』のホトトギスばかり読んだ一連の歌でほぼ初期の歌だという。出典となった歌合では、紀友則の恋の歌と合わせられているから、この一夜は女性の元へ行った歌だという。ホトトギスよりも短夜を歌ったものだと。

同じような歌に『古今集』を編集時に醍醐天皇から歌を詠めと言われて詠んだのが、

ことの夏はいかが鳴きけん時鳥今宵(こよい)ばかりはあらじと聞く  紀貫之

『貫之集』

漢字の郭公と時鳥の区別はなんでだろう。郭公の方が古い言い方なのか?

桜花散りぬる風のなごりには水なき空に波ぞたちける
桜散る木(こ)の下風はさむからで空に知られぬ雪ぞふりける
袖ひちてむすびし水の凍れるを春立つ今日の風や解くらむ
人はいさ心も知らずふるさとは花ぞ昔の香ににほいける
桜花とく散りぬともおもほへず人の心ぞ風に吹きあへず
秋の菊にほふかぎりはかざして花より先と知らぬわが身を
見る人もなくて散りぬる奥山の紅葉は夜の錦なりけり
夕月夜小倉の山に鳴く鹿の声のうちにや秋はくるらむ

「桜花」の歌も『古今集 春下』出典だが、これも歌合の歌である、そういう場で鍛錬していたのがわかる。桜の落花の美を詠んだものだが「なごり」という言葉が貫之の「心」なのだ。「空に波」は「見立ての技法」。「なごり」を「波」に見立てたのか?空=空虚さか?

「桜散る」は『拾遺和歌集』。これは「雪」の見立て。藤原俊成によると本歌は

桜散る花のところは春ながら雪ぞふりつつ消えがてにする  承均法師

『古今集 春下』

「袖ひちて」は『古今集 春上』。「春立つ」は立春。この歌は見えない春夏秋冬を詠んでいるのだと。「袖ひちて」の頃は夏から厳冬を経て水どけの季節を迎える。「今日」を「こち」春風との掛詞的に使っているという。なかなかのテクニシャンの歌だった。

「人はいさ」は『古今集 春上』なので花は梅である。久しぶりに訪れた長谷寺の主に梅の花を折って送ったという(勝手に折っていいのかと思うが当時は大らかだったのか)。変わりやすい人の心に対して変わらぬ自然の有様を詠んだという。江戸時代の川柳子が

梅の花愛でて主をあてこすり

と詠まれたそうである。

ふたたび「桜花」の歌。これも『古今集 春下』。ここも人の心と自然の有様を対比していた。桜の花は風があると散るが人の心は風が吹かずとも散ってしまうという意味。吉田兼好の『徒然草』の中で同じようなことを言っている。

風も吹きあへずうつろふ、人の心の花になれにし年月を思へば、あはれと聞きし言の葉ごとに忘れぬものから、我が世のほかになりゆくならひこそ、なき人の別れよりもまさりて悲しきものなれ  

吉田兼好『徒然草』

「秋の菊」は『古今集 秋下』。菊は長寿を祝う花だけど自分の身は限りあるものとして詠んでいるという。世間の言葉(無常観)と物に託した寄物陳思のスタイル。

「見る人も」も『古今集 秋下』。中国の古典『史記』の項羽伝の中に錦も飾れぬ夜行するということから「宝の持ち腐れ」という意味だという。だから手折知人に見せてやろうという歌なんだそうだ(王朝人の風流さは人と分かち合う心)。奥山の紅葉が錦だという褒め言葉じゃないのか?

「夕月夜」の歌も『古今集 秋下』。ほんと『古今集』は紀貫之の独壇場だな。「夕月夜」は「小倉山」の枕詞。「秋はくるるらむ」は「来る」と「暮る」の掛詞。ものごと(季節)の終わりを示している。鹿の声がそれを告げるのだ。

NHK短歌

今週のお題「硝子」は作ったのに見当たらない。保存場所を考えておかないと駄目だな。Twitter(Xだ!)の鍵付き個室がいいと思ったのだが、そこには全然保存されていない。ワード使いになるために少しワード勉強しようか。それをワンドライブに保存すればどこでも見られる。というがそれが難しいのだ。Xは便利なんだが、終わる可能性もいれとかなければ。あまり短歌に関係がない話だった。「硝子」は入選してないのだから、大した短歌でもなかったのだろうと諦める。

今日のテーマは結句の重要性。最後の7文字だ。俳句をやっていると5文字にしてしまう場合がある。7文字だと、4+3文字だ。最後の三文字は動詞になるのか?4文字は名詞+助詞で三文字の名詞だな。

いきなりは作れない。『百人一首』本歌取りで。

エレベータ ガールの白い 手袋は 昼には消えつつ 最上階に

硝子がないじゃないか?

エレベータ ガールの白い 手袋は 硝子の扉 最上階に

意味がいまいち

エレベータ ガールは外す 手袋を 硝子の扉 最上階に

まあ、このぐらいだった。

~8月21日(月) 午後1時 締め切り~川野里子さん「ジグザグ」、山崎聡子さん「隠していたこと」(テーマ)https://www.nhk.jp/p/ts/JM12GR5RLP/

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