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ケストナーの「失われた時を求めて」

『さよなら、ベルリン またはファビアンの選択について』(2021/ドイツ)監督:ドミニク・グラフ 出演:トム・シリング/ザスキア・ローゼンダール

解説/あらすじ
時代は 1931 年のベルリン。狂躁と類廃の 20 年代から出⼝のない不況へ、⼈々の⼼に⽣まれた空虚な隙間に⼊り込むように、ひたひたとナチズムの⾜⾳が聞こえてくる。どこか現代にも重なる時代、作家を志してベルリンにやってきたファビアンはどこへ⾏くべきか惑い、⽴ち尽くす。コルネリアとの恋。ただ⼀⼈の「親友」ラブーデの破滅。コルネリアは⼥優を⽬指しファビアンの元を離れるが……。

『飛ぶ教室』のケストナー原作。ナチスが登場してくるまでのベルリンの喧騒と退廃の中で作家の青春時代。ナチスの台頭は、足音ぐらいの情景で、友人の死と恋人との別れが中心で、そんな時代でも青春だったというような映画となっている。当時のベルリンの白黒映像と物語を上手く重ねている。

オープニングが現代の地下鉄のようで、地下鉄から外に出ると 20 年代のベルリンになっていたのが、秀逸。映像的にはけっこう芸術性が高い。ストーリーが煩雑だけれども当時のベルリンの喧騒そのものをイメージしているのだろう。刹那的な場当たり的な快楽主義が氾濫する世界とその裏(こっちが表か?)では徐々にナチスによる暴力の世界が見え隠れする。

アヴァンギャルドな娼婦街と前衛芸術の中で、女優を目指す彼女との前衛的な友人との快楽と自虐的な日々。友人はレッシングの論文が認められず、ナチス時代が来ることを予感し失意のうちに自殺。ケストナーの『失われたときを求めて』というような映画になっている。

女優との別れのシーンは、オーデションで作家志望の彼がセリフを用意していて、それは彼女が彼に対して言う別れのセリフだったとかなかなか洒落ているシーンがある。あと母親とのダンスのシーン。ダンスのシーンがいいのはいい映画の条件だからね。


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