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呪いのメッセージ

最初のメール

秋子の取説受け取りました。しかし、自分の娘に取説なんて書くかねえ。学校へ行けとは言わないし、俺は俺の生活で目一杯だ。お前も知っているようにお袋は痴呆症で施設に入れた。というより妹が面倒を見ていたのだから、妹が扱いきれなくなったというわけだ。金は折半だから生活は正直苦しい。さらに秋子のことも面倒見なければならなくなるなんて。

そんな愚痴をお前に言っても仕方がないことだ。わかっている。わかりすぎるぐらいわかっているんだ。秋子には保護者が必要だったのさ。それがお前じゃなかったということなんだ。お前にとっては辛く残念なことだけど、これは事実だから仕方がない。

明日は心療内科に連れていく。でも、もう大丈夫だと思う。リスト・カットもなかったし、今も友だちから借りた動画を見てケラケラ笑っている。気になったんでそっと部屋を見に行ったんだ。なんだと思う。

例の日本人斬首の動画だが、娘の学校で流行っているのだそうだ。「呪いの動画」として。しかしその動画を見る者は何故か救われるという。俺はそこは詮索しようとは思わない。

お前ならまたヒステリー起こして責め立てるんだろうな。そういうのは逆効果なんだ。なぜそれを見てはいけないのか、道徳よりも倫理の問題なんだ。その説明が必要なのさ。

お前には難しいかもしれないが、俺は娘を信じることが出来る。昨日も食事のときに動画の話はしてくれた。

俺も一緒に「呪いの動画」を見たよ。秋子が救われるというのはわからないが、たぶん、より現実の方が恐ろしいと知ったのだと思う。俺も恐ろしい世界になってしまったな、と思ったよ。その恐ろしい世界を作ったのは俺たちかもしれない。

あと変わったことと言えば娘が母を施設から出して一緒に暮らしたいと言うのだ。それは俺の一存ではきめられないし、妹を説得出来るか?と言ったよ。たぶん、無理だろうな。あの母にしてあの娘だからな。親子はどこでも似るもんさ。

問題はお前の干渉のしすぎなんだ。秋子に言わせれば、お前はうざいそうだ。ごめん、少しキツい言葉だったかもしれない。でも思春期の頃なんて、みんな親がうざいものなんだ。とりあえず秋子の心配はするな。もうお前じゃなく俺を選択したのだから。賢い娘だよ。

お前は自分中心の世界だけで、あれこれ文句を言っているのだと秋子も気がついてしまったんだよ。それまで俺を敵にしていたが、俺から離れてみると、本当はお前が敵だったということがわかったのさ。俺はお前を今でも許せない。

しかしだ。俺は娘を誰よりも愛す。それは秋子に伝えたよ。それとあまり関係ない話だが手紙にお前の名前に様を付けることだって許せない気持ちなんだ。しかし俺には社会常識はまだあるんだ。

                     お前の敵より

二通目のメール

案の定、妹は説得出来なかったようだ。コロナ禍だし、そうたやすくお袋をあっちこっち移動させるのもどうかと説得されたらしい。秋子は泣いていたよ。それほど優しい娘なんだ。だけど世の中、秋子だけの世界じゃないということをあいつも知っただろう。関係性の問題なんだよ。三角関係の。それがそもそもお前の妄想の一つだったんだがな。

母のことだって、お前とどっちが大事かなんて言えるわけがないんだ。お前だって、お前の母と娘がどっちかなんて言えるわけがないだろう。確かに母は痴呆症で、あることないことを言うがそれは病気であって、本心ではない。それをわからないから、秋子に対しても理解を示せないのだろう。

心療内科のS先生だっけ?ちょっと上から目線の。あれは秋子には合わないな。俺の方で病院を探すよ。秋子もそのほうがいいと言っている。帰りにSの悪口三昧よ。なんか若すぎて経験値が少ないんだろうな。マニュアル通りというか、融通が効かない。家族の病ですからとか。それはそうかもしれないが、母と娘の関係性だろうと言い返したくなったよ。そこまでは俺も大人だから言わんがな。

とにかく秋子は大丈夫だから心配はするな。ただ思春期で感情がコントロールできないのさ。お袋のことだって、明日になれば忘れているだろう。相変わらず「呪いの動画」を見てケラケラと笑っているよ。

その後に怖いから一緒に寝てくれというんだ。可愛い娘じゃないか?勘違いするなよ。俺はベッドだけどアイツは布団を持ってきたよ。付き添いが必要なんだ。見守る者が。

                   娘を愛する父より

留守番電話のメッセージ

お前どうして、早く来てくれなかったんだ。留守電は通じているんだろう。また、アイツのところか!ヤバいことになったんだ、そんな時にお前は、お前は、いつも、ほっつき歩いている。母親失格だ!

わけがわからないよ。この家が呪われているのはお袋せいだと言い始めたんだ。俺はどうすればいい、教えてくれ!

                      俺だ。


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