見出し画像

短歌界の仁義なき戦い(『極道の妻』シリーズか?)

『短歌ムック ねむらない樹 vol.7』

巻頭エッセイ ホー・ツーニェン

特集1 葛原妙子
インタビュー 高橋睦郎「僕の知っている葛原さんのこと」(聞き手:川野里子)
座談会 石川美南×水原紫苑×睦月都×吉川宏志
論考 尾崎まゆみ 春日いづみ 花山周子 ほか
トリビュート
石松佳 井上法子 紀野恵 鈴木一平 ほか
「女人短歌」とは何だったのか?
濱田美枝子 佐伯裕子 内野光子 ほか

特集2 川野芽生
短歌「燃ゆるものは」(川野芽生)
小説「蟲科病院」(川野芽生)
往復書簡 山尾悠子×川野芽生

大前粟生 短歌50首「とびひざげり」

【目次】
巻頭エッセイ ホー・ツーニェン「大家増三について私が知っている二、三の事柄」(新井知行訳)
特集1葛原妙子
インタビュー 高橋睦郎「僕の知っている葛原さんのこと」(聞き手:川野里子)
座談会 石川美南×水原紫苑×睦月都×吉川宏志
論考 尾崎まゆみ 松平盟子 高木佳子 牛山ゆう子 楠誓英 花山周子 林あまり 春日いづみ
往復書簡 川野里子×水原紫苑
トリビュート 紀野恵 井上法子 石松佳 八上桐子 鈴木一平 鴇田智哉
「女人短歌」とは何だったのか?
特集2 川野芽生
自筆年譜
短歌「燃ゆるものは」(川野芽生)
小説「蟲科病院」(川野芽生)
往復書簡 山尾悠子×川野芽生
藤原龍一郎 吉田瑞季 山階基
作品30首 高橋睦郎
作品20首 藪内亮輔 谷川電話 永田紅 土岐友浩 川島結佳子 しんくわ 石井辰彦 佐伯紺 寺井奈緒美 雪舟えま 中津昌子 早坂類
作品50首 大前粟生
第三回笹井宏之賞受賞者 新作 乾遥香 瀬口真司 嶋稟太郎 川村有史 手取川由紀 向井俊 など

出版社情報・目次

この号は「幻視の女王」葛原妙子特集がメインだが、それにともなって女性歌人の活躍が目覚ましいのだった。二代目「幻視の女王」を襲名するのは誰なのか?という俗な興味を持って読んでしまった。二代目襲名『極道の妻たち』のようなんだもの。極道=幻想という感じで。林あまり、水原紫苑、紀野恵の後継者争いに、川野芽生というとんでもないヒットウーマンが現れた!

特集1 葛原妙子

葛原妙子。人気ありますね。「幻視の女王」という塚本邦雄のネーミングで有名ですね。幻想系短歌を目指すことにした私めとしましては、塚本邦雄と葛原妙子は必修科目かな、と思ってます。

まず「シン・短歌レッスン」で取り上げた葛原妙子。「模範十首」です。

「葛原妙子と信仰──いちクリスチャンの視点から」林あまり

葛原妙子はモチーフとしてキリスト教の歌(130首だそうです)が多いのですが、本人はあくまでも芸術としての興味だったものが、晩年娘によって洗礼を受けられました。その過程を想像するとドラマチックですね。洗礼名がマリア・フランシスカ。もうこの歌を上げるしかないですね。

風はうたごゑを攫(さら)ふきれぎれに さんた、ま、りぁ、りぁ、りぁ  葛原妙子『朱霊』

往復書簡 川野里子×水原紫苑


しずかなる大和の寺を覗きみぬ聖娼婦百済観音の足  葛原妙子『をがたま』

この対談は読み応えがありました。川野里子は葛原妙子の評論が多い歌人ですし、水原紫苑は幻想系歌人。現在の「幻視の女王」二代目襲名でしょうか(林あまりという説もある、勝手にそう思いました)?もう一人の注目すべき女性歌人の山中智恵子(メモ、メモφ(・ω・`))との比較考察が出てきます。掲載歌は、大和の百済観音からマグダラのマリアへという感じでしょうか?

言葉を棄てし草木のためさすらへる神もしあればわれにありけむ  山中智恵子『青扇』

山中智恵子は晩年は伝統短歌の方へ自己模倣の晩年だった天才歌人として、葛原妙子は贖ったけれども結局は神に屈服せねばならなかった努力の人として描いている。面白いのは、山中智恵子も葛原妙子も字余りの歌を多く読んだのでした。けれども葛原妙子は字足らずの名歌もあるということでした。そのへんの違いはより奔放な葛原妙子を感じてしまう。

黒峠とふ峠ありにし あるひは日本の地圖にはあらぬ  葛原妙子

水原紫苑は、これより凄い歌を作ったのは釋迢空だと言ってます。

基督の 眞はだかにして血の肌(ハダヘ) 見つゝわらへり。雪の中より  釋迢空

ただ釋迢空は和歌以前の古典の理解があるが、葛原妙子は自己イメージだと言ってます。葛原の「幻視の女王」を特権階級意識だとして、「女王様をギロチンにかけろ」という水原紫苑の過激な言葉。映画『極道の妻たち』を彷彿させます。かたせ梨乃あたりか?

その歌では首を落とせないという川野里子の反論も面白い。「この世ではなく他界までいかなければ」ということらしい。

他界より眺めてあらばしづかなる的となるべきゆふぐれの水  葛原妙子

そして次のページでこの掲載歌を紀野恵がトリビュートとして上げてますね。代理戦争勃発か?

「女人短歌」とは何だったのか?

葛葉妙子が戦後女性歌人は生活詠しか読まないで社会的批評歌がないと批判した近藤芳美の言葉を受けて(反発して)、『女人短歌』を立ち上げたということです。短歌の女歌というジャンルで釋迢空は和歌からの伝統であるという言葉からの反発があったのか?こういう論争は、今でも可能なのか?

辭書二冊机に据ゑてこの夜やわれに憑くべき神々もなく  葛原妙子「女人短歌 ニ号」

葛原妙子は時事短歌に対するフィクション(虚構性)短歌を否定するものではないという点で前衛短歌運動とも連動して行ったのでその成果としてマリアに対する壮絶な虚構短歌を遺している。

マリアの胸にくれなゐの乳頭を點じたるかなしみふかき繪を去りかねつ  葛原妙子『飛行』

「去りかねつ」は最初(「女人短歌」掲載時は)「「思ひいづ」だったといい、混血の子供を産むしかなかった女性短歌に連動しているという。『乳房喪失』の中城ふみ子にも連動しているかもしれない。

特集2 川野芽生

川野芽生(かわのめぐみ)も先程出版された『Lilith(りりす)』で『幻視の女王』候補の一人になったが、このへんは難解短歌として競争も激しいのだが、ただ水原紫苑が『現代歌人協会賞』(けっこう権威ある賞だと思うのだが)の選考で龍が現れたと手放しで賛美したのかと思えば、水原紫苑の批評を書いていたと知って女王よりも龍に譬えたプライドを感じないわけにはいかない。その中の一首。

わがウェルギウスわれなり薔薇(そうび)とふ九重の地獄(i
nferunoインフェルノ)ひらけば  川野芽生『Lilith』

そんな川野芽生を形作ってきた幻想文学というジャンルがあるのだが、その中で山尾悠子との往復書簡を読むと短歌だけではなく幻想文学全般に興味があるようで、短編小説『蟲科病院』はSFチックな近未来小説。山尾悠子『ラピスラズ』を推薦図書としていることからもその系譜を感じさせる。往復書簡は一ファンのファンレターみたいだが。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?