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孝行息子の話だろうか?

『マザー、サン』(1997/ ドイツ・ロシア合作)監督アレクサンドル・ソクーロフ 出演ガドラン・ゲイヤー、アレクセイ・アナニシノフ

解説
母と息子、ただ二人の登場人物とシンプルな物語を通して、絵画的な構図の中に普遍的な「愛」を描いた一編。19世紀ドイツロマン主義を代表する画家、カスパー・ダヴィッド・フリードリヒの「海辺の修道士」をモチーフに、「精神の声」のアレクサンドル・ソクーロフが、精密な構図のうちに繊細なハーフトーンの映像を実現。脚本のユーリイ・アラボフ、編集のレーダ・セミョーノワはともに処女作「孤独な声」以来ソクーロフ作品には欠かせないスタッフである。撮影は「精神の声」にも参加したアレクセイ・ヒョードロフが、ビデオ作品「オリエンタル・エレジー」に続いて担当。出演は、母にガドラン・ゲイヤー、息子に「日陽はしづかに発酵し…」のアレクセイ・アナニシノフ。モスクワ国際映画祭でタルコフスキー賞、審査員特別賞、撮影賞、ロシア批評家賞を受賞したほか、ベルリン国際映画祭のパノラマ部門にも正式出品され大きな反響を呼んだ。

オープニングの絵から人物の口が動き出すのは最新作『独裁者たちのとき』でも使われていたが、そこから役者が重なるように幽体離脱していく不思議な映像。ソクーロフの映像テクニックの不可思議さ。映画も全体的に絵画的な色調であり、春のおとずれの白い花が印象的である(梅か杏か?桜ではないな)。映像がそれまでにない幻想的な感じで、それは遠くの彼岸の情景のようでさえある。ソクーロフには彼岸性がある。

物語は母思いの青年が母を看取る話だが、現在では実家で看取るというのはありえないような、病院という場所に行かないで母親を看取るのか?という疑問がよぎる(貧しい生活だからか、諦念という感じなのか?)。さらに母と息子二人だけなのがどういうことなんだとか(息子は仕事はしてないのか?母は教師だった)。これは病院に行けない老老介護問題を思い出させる。そこが現実問題でもありながらどこか遠い世界の情景なのだが、息子は母親を捨てようと旅だつような行動も見られ(散歩といいながら外に放置するのは姨捨のように思えたのだが)、最後の舟シーンはあきらかに一人旅立つことを願っていた。

それでも孝行息子として母に寄り添う息子の物語なのである。しかし絵から伺われる神々しい親子愛とは違っているような。映像は詩的なのだが、問い続ける根本的な問題があるように思える。二人だけの登場人物でセリフも少なく眠くなるのは必然だがテーマは重い映画だ。


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