孝行息子の話だろうか?
『マザー、サン』(1997/ ドイツ・ロシア合作)監督アレクサンドル・ソクーロフ 出演ガドラン・ゲイヤー、アレクセイ・アナニシノフ
オープニングの絵から人物の口が動き出すのは最新作『独裁者たちのとき』でも使われていたが、そこから役者が重なるように幽体離脱していく不思議な映像。ソクーロフの映像テクニックの不可思議さ。映画も全体的に絵画的な色調であり、春のおとずれの白い花が印象的である(梅か杏か?桜ではないな)。映像がそれまでにない幻想的な感じで、それは遠くの彼岸の情景のようでさえある。ソクーロフには彼岸性がある。
物語は母思いの青年が母を看取る話だが、現在では実家で看取るというのはありえないような、病院という場所に行かないで母親を看取るのか?という疑問がよぎる(貧しい生活だからか、諦念という感じなのか?)。さらに母と息子二人だけなのがどういうことなんだとか(息子は仕事はしてないのか?母は教師だった)。これは病院に行けない老老介護問題を思い出させる。そこが現実問題でもありながらどこか遠い世界の情景なのだが、息子は母親を捨てようと旅だつような行動も見られ(散歩といいながら外に放置するのは姨捨のように思えたのだが)、最後の舟シーンはあきらかに一人旅立つことを願っていた。
それでも孝行息子として母に寄り添う息子の物語なのである。しかし絵から伺われる神々しい親子愛とは違っているような。映像は詩的なのだが、問い続ける根本的な問題があるように思える。二人だけの登場人物でセリフも少なく眠くなるのは必然だがテーマは重い映画だ。
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