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詩人による漢詩入門書

『漢詩百首: 日本語を豊かに 』高橋睦郎(中公新書 )

日本人の精神にも深い影響を与えてきた漢詩から、中国60人、日本40人による名詩を精選して、今もいきいきと脈打つ詩の精髄を示す。
内容説明
返り点と送り仮名の発明によって、日本人は、ほんらい外国の詩である漢詩を自らのものとした。その結果、それを鑑賞するにとどまらず、作詩にも通暁する人物が輩出した。本書は、中国人六〇人、日本人四〇人の、古代から現代に及ぶ代表的な漢詩を精選し、詩人独自の読みを附すとともに、詩句の由来や作者の経歴、時代背景などを紹介。外国文化を自家薬篭中のものとした、世界でも稀有な実例を、愉しみとともに通読する。

選者は詩人でもある高橋睦郎。高橋睦郎は俳句でも漢詩のような難しい漢字を使うので読者泣かせなのだが、漢詩がバックボーンにあったのだと好感を持つ。漢文は江戸時代まで詩吟や文学でも馴染が深いものだった。それが和歌や日本の古典文学の影響からか次第に見向きもされなくなっていく。『源氏物語』の中にも漢文の影響があるのだ。それは仮名が日常的な喜怒哀楽を表現したのに対して漢文は抽象言語を育てたという。仏教の影響もあるだろうか。日本では僧侶の漢詩も多い。

入門に中国の漢詩60と日本の漢詩40。日本の漢詩を載せたのが良かった。中国の漢文の影響を聖徳太子から永井荷風まで受けていた。『断腸亭日乗』はそう言えば最初漢文だった(日本の文語として漢文は江戸時代まで当たり前に公用語として使われていた)。また江戸時代の娯楽でも詩吟などに漢詩が用いられている。それで覚えている人も多いという(高橋睦郎の母が亡くなる直前に詩吟を唸ったとか)。

中国は孔子から毛沢東まで。中国詩の特徴は男女愛よりも友情だった。日本の和歌文化がほとんど恋愛なのと違い、それがまた同志観を煽るのか、従属関係ではない対等関係にあるようだ。李白と杜甫の友情詩がいつの時代もモデルとされているような、それと孔子の師弟愛(これは従属関係かもしれなかった)ということか。

また唐詩がいいのは乱世で生き方が反映されるという。鈴木健一の対談を含め解説もわかりやすい。中国では李賀の狂気性が、日本の漢詩では正岡子規の中国を煽るのに漢詩を使って馬鹿野郎とか書いているのが面白かった。


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