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シン・俳句レッスン59

もう11月も終わろうとしているが寒桜。十月サクラという種類もあるがそれとは違うのか?返り花ともあるが。ネットで調べたら寒緋桜ということだった。本当は1月~3月に咲くのだから早く咲きすぎたのか?「返り花」が小春日和で咲いた季節外れの花ということでいいようだ。

凩に匂ひやつけし帰花  芭蕉

「後の旅」

かへり花暁の月にちりつくす  蕪村

「夜半叟句集」


衣食住をめぐる俳句

返却期限が過ぎているので、夏石番矢『超早わかり現代俳句マニュアル』を集中的に。


衣服は人間を動物からへだてる文化の指標であるという。もっとも身近な文化アイテムか?衣服は、人にある種の新しい気分をもたらす。

ワイシャツに手を通しつつ朝桜  岸本尚毅

ワイシャツは一日の労働の始まりを示す。それと朝桜の雅な対比。

Tシャツに海が匂へり聖五月  佐野典子

薄手の着衣は、着る人間を開放的にする。
逆に厚手の衣服は、人に落ち着いた安定感を与える。

セーターに顔出して遠き山が見ゆ  鎌倉佐弓

親しい衣服も、違った面を見せる。

三鬼忌やシャツに走れる静電気  大庭紫逢

フード避けねずみ男の返り花  宿仮

ねずみ男が小春日和で思わずフードをのけてしまった。


食は人間が動物に近いことを示す。

冷蔵庫より蛸を出し母が食ふ  皆吉司

料理を作る仕事は、主婦の喜怒哀楽を伝える。

腹立てて愚かに秋刀魚焦がしたり  西村和子

台所俳句も今は当然だった。現代風おしゃれな気分は、買い食いに現れる。

ポップコーン弾けひろがる鰯雲  佐野典子

飽食の時代にまつわる食の想像力はまだ豊かになってはいない。短歌の方が豊かなのかもしれない。

「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日  俵万智

 白蕪に漬物石や返り花  宿仮

桜漬けをイメージ。


いまの日本では、衣・食・住の中で最も貧弱なのは住であろう。日本的家屋の姿を伝える俳句。

夏の日のわれは柱にとりまかれ  宇多喜代子

現在はそうした家よりもマンション・アパートが詠まれる。

晩夏かなエレベーターにこどもの血  松葉久美子

鷹羽狩行『誕生』は1960-50年代のアパート生活を伝えている。

新緑のアパート妻を玻璃囲ひ  鷹羽狩行
馬追が鳴くアパートの白天井

「玻璃(はり)」はガラス。

俳句作品の住は過去の家庭に向かいがちで、現在の家からはあまり幻想作品を生み出していない。

アパートの窓の灯りやクリスマス  宿仮

労働

義務としての労働はけっして明るいものではない。

秋の暮アスファルト敷く人らにも  徳弘純

現在は労働にネガティブなイメージしかないが、かつては輝いていた

鉄工所冬正門に獅子を掘れり  細川源二

戦後俳句を牽引した俳人も労働俳句を詠んでいた。

溶接の火花走る見よや冬鷗  佐藤鬼房

死にてなお鉄工所君の油の手  鈴木六林男

銀行員等朝より蛍光す烏賊のごとく  金子兜太

鶯や朝一番の積み下ろし  宿仮

明るいイメージということこんなところか?

現代俳句は過去への視線をなげかけがちであるという。未来の夢が描きにくくなっているんだよな。

聖なるものをめぐる俳句

冠婚葬祭

喪の家の裏口になる捕虫網  荻原都美子

冠婚葬祭は日常を超えたものの光が聖なる光が差し込む。

海に火が点りて祭はじまりぬ  小沢克己

宗教的行為

アヴェマリア歌う落葉松はみな垂直で  坪内稔典

宗教を信じているわけではないがその行為事態のあこがれがある。

神道の残存

滝上の神居る部分けぶりゐる  能村研二

神秘的な情景に神道を感じせる。

宗教的幻想

寒い夜ののっぽのキリストかもしれぬ  宇多喜代子

ちょっとしたことから宗教的幻想を感じることがある。寒い夜道を所在なげに歩いているから、説教しに歩きまわるキリストを連想させる。

神呼ばむ冬のからだを杖として  摂津幸彦

神は寒さが厳しい方が出現しやすいのか。神仏に対する祈念が呼び覚まされる。

泳ぐかなからくれなゐの形代と  夏石番矢

肉体と精神の喜びを宗教的体験から解放感を得る俳句。

怪異

樹上に鬼 歯が泣き濡れる小学校

幼さは怪異に出会いやすいが、大人になると出会わなくなる。鬼はとくにその傾向がある。大人になると自身が鬼となることがある。

この樹登らば鬼女となるべし夕紅葉  三橋鷹女

石の上に 秋の鬼ゐて火を炊けり  富澤赤黄男

富澤赤黄男の句は戦時下(1941年)の作品。


死は劇的であるが中でも自死は現代俳句の核となるテーマを帯びる。

一対(ワンペア)のキングに敗れ兄の縊死  藤原月彦

キングが王を暗示しているのかと思ったら賭け事に負けた兄の自死だという。

高柳重信は自殺願望を俳句にする。

やがて縊死する
そんな予感の
苗木を植ゑる  高柳重信

空虚な死

南国に死しての御恩のみなみかぜ  摂津幸彦

空虚な死は無意味な死として、戦争俳句に多いのかもしれない。

死亡記事今朝は読まずに秋の雲  皆吉司

他者の死は無関心を装う現代的な句。井上陽水「傘がない」の世界だな。

臨終の予感

死に際は蝶いちまいをひきよせる  宇多喜代子

「死に際」に美学を観る自己死の幻想。

その他の死の諸相

牡丹の下で黄色い帽子をかぶってくたばる  四ッ谷龍

西行の「桜」の歌のパロディか?

現代では孤独死の様相が想起される。

降る雪や野には舌持つ髑髏(ひとがしら)  夏石番矢

死蛍に照らしをかける蛍かな  永田耕衣

永田耕衣になると死と自然が一体感(地続き)になっている。古代(アニミズム)的な宗教世界。

縊死せしの返り花咲く御神木(マザーツリー)  宿仮


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