3minutes エチュード「新幹線」

~3minutes エチュードシリーズ~

(作者による前口上)

見知らぬ人同士が、かなり近い距離で隣り合う新幹線というシチュエーションでは、日々こんな小さなドラマが繰り広げられているのかもしれない。

タイトル「新幹線」

3つ並びの新幹線の席

中央の席の人がまず来る。

座席に座る。

続いて、窓側の人到着。


窓   えっと、15のA?

    ああ。


中の人、立って通路へよける。  

窓の人は自分が通路側だと思い込んで  

そのまま荷物を整理して、通路側へ落ち着く。  

その様子を傍で見ている、中。  


窓   (傍にたっている中を見て少し不審そうに)

    え、あ、入ります?

中   え・・ああ・・・はい、すみません。

中、中央に再び座る。  

そこに本当の通路側の人が来る。  

通路  えっと、あれ?

    (チケットを見返す)

    あ、あの、すみません。

    ここ(チケットを見せて)私・・・・

窓   え?あれ?

    (チケットを見返す)

    あ、Aって(窓側をさし)こっちですか?

    はいはい、すいません。


窓、あわてて荷物をまとめて、窓側にいこうとする。  

中、再び、よけるため通路へ退避。  


窓   あ、すみません。

    すみません。


3人、ようやく定位置へ座る。  


窓   (中に)あの、すみません。

中   はい

窓   さっき、私が、奥に入ると思って、

    よけてくれてた。

中   はい

窓   あ、今じゃなくって、最初の時ですよ

中   え・・・あ・・・ああ

窓   何で、私が窓側だと?

中   ああ、あの、15のAって言っていたような

    気がしたので。

窓   ああ、なるほど、それで。

中   はい。


しばし間。  


窓   あの、ということは、

    私が通路側に座ってしまって、

    あれ?と思った

中   いや、まあ、私が聞き間違えただけかもしれないし

窓   ああ。

    でも、結果的に間違っていて、

    ホラ見たことか、と。

中   いや、決してそんな

窓   ああ、ごめんなさい、別にその、

    攻めているわけじゃなくて、

    結果、その、あなたを2回も立たせてしまって、

    申し訳なかったな、と

中   いえ、お気になさらず

窓   最初に言ってくれれば

中   あ、やっぱりすみません。

窓   ああ、いえ、そういう意味では!

    なんだか、恥ずかしいというか、

    せっかく奥だと思って席をあけてくれた訳なのに

    こっちは、ここだと思い込んで、

    何の疑いもなく、どかっとねえ。

    馬鹿みたいですねえ。

中   いえいえ

窓   恥かいたなあ

中   だからすみません。

窓   いえ、お気になさらず

中   ・・・・・


間  


窓   しかし、Aっていうのを聞いて、

    窓側だってとっさにわかるのは、

    新幹線になれてらっしゃる。

中   いや、別にそんな

窓   新幹線にはよく?

中   まあ、仕事柄。

窓   いつも中央の席を?

中   いえ、今日はたまたま込んでいたもので。

    いつもは通路側を。

窓   ああ、そっちなんですか、

    なるほど、そっちが人気なんですか?

    じゃあ、窓側っていうのは何か馬鹿みたいですか?

    子供だなあって、感じですか?

中   いやいや、そんなことは。

    好みではないですか?

窓   じゃあ、何で通路側が?

中   いや、あの、トイレとか行く時に、

    いちいちこう、よけてもらうのが申し訳ないというか

窓   ああ、なるほど。

    そうですね。

    あ、そうだ、私も行っときます今のうち

    すみません。


中と通路、よける。  

窓はトイレに。  


通路  あの、よかったら代わりましょうか?

中   え、いやいや、そんなつもりでは。


沈黙

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