3minutes エチュード「バイト」

~3minutes エチュードシリーズ~

(作者による前口上)

バイトの面接とか、就職の面接とか、嫌ですよね。自分が社会人になって採用する側の立場もわかるようになると、余計に、どちらの気持ちも立場もそれぞれ理解できて。基本的に、年齢的にも立場的にも、採用する側のほうが優位にたつことが多いと思うが、最近は面接でもハラスメントという言葉が広がってきているので、する側も気が気じゃないというか、逆に面接されている気にもなるのかなと、思ってしまう今日この頃。

タイトル「バイト」


コンビニの店長と学生が向かい合っている。


店長 (履歴書を見ながら)

   えーと、小田島君。

学生 はい。

店長 ふーん、文学部。

   いいねえ

学生 え?

店長 ああ、いや。

   で、どれくらい入れるのかなあ。

学生 え、どれくらいというと?

店長 んー、だから週4とか、

   あ、あと土日も基本的にどちらかは

    はいってほしいんだけど。

学生 あの、張り紙には

    勤務時間は要望にあわせるって

店長 ん?

   あ、そうそう。

   いやだから、聞いてるわけ。

学生 まずは週一くらいからかな、と。

店長 週一?

   そりゃまた少ないなあ

学生 あの、僕スロースターターなんで。

店長 え、す・・何、それ?

   何かのサークル?

学生 あ、いえ

店長 授業も、まだ、そんな忙しくないでしょ。

   2年生だし、文学部だし。

学生 はあ、なるほど。

   それでさっき。

店長 何?

学生 いえ、その、週一は駄目なんですか。

店長 いや、別に駄目じゃないよ。

   そりゃ、別に、入ってくれるだけでいいし、

   働いた分しか、バイト代は出ないわけだから、

   こっちは。

   ただ、まあ、結構うちもバイトの希望がくるわけ。

   で、普通週4とか、毎日働けるッテ子もいるし。

   その、例えば、今日はないけど、

   例えば明日もう一人学生が希望してきたとして、

   その子が週4働けます、ってなった時に、

   じゃあ、君とどっちをとるってなると、

   まあ、そっちになるわけ。

学生 いや、どっちもとればいいんじゃないですか?

店長 いいじゃないですか、って、

   それはこっちの勝手だろ。

   バイトの数が増えたら、色々管理する手間とかあるわけだから、

学生 じゃあ、逆に聞きますが、

   あなたは週4とか5とか毎日朝から晩までバイトしてる学生と、

   週1しかバイトに入れない学生と、

   どちらが真面目だと思いますか?

店長 真面目?

学生 学生の本分は勉学だっていうことをふまえてですよ。

店長 何なの?さっきから。

   君、偉そうに。

   君は勉強がいそがしいから週一しか入れないと、

   そういうこと?

学生 そういう可能性はありませんか、ってことです。

店長 何だ可能性って?

   え?

   君のことだろうが

学生 違います。リスク管理のことですよ。

店長 は?

学生 そりゃ、一見、たくさん働く学生のほうが、

   得だと思うかもしれない。

   でも、その背景にある、能力だとか資質だとか、

   そういうことまで思いをめぐらせると、

   どっちが得である可能性が高いかっていうことです。

店長 君、面倒くさい。

学生 は?

店長 とってほしいなら素直にそういいなさいよ。

   君、今までバイトは?

学生 いえ?何も。

店長 そう。

   じゃあ、教えといてあげるけど。

   面接でそういう態度じゃ、駄目だよ。

   誰もとってくれないよ。

   そんな、偉そうに理屈ばかり並べても、

   もっとこう、熱意とかさあ、やる気とかさあ、

   そういうのが大事なんじゃないの。

学生 やる気は、あります。

   だからこそ、ここにいるわけですから。

店長 その付け足しが余計だって。

   じゃあ、週3は、はいって。

学生 あの、ですから、やる気と労働時間は。

店長 入れないの?

学生 うーん。

   まずは週1からお願いしたい。

店長 何で?

学生 うーん。

   例えば、こう、寒いところから

   急に熱湯に入ると、やけどするように。

店長 何の話だよ。

   例えるなよ。

   何だよ、文学部だから、そうやって

   文学的に訴えてみたのかよ。

   うまくないよ。

   別に熱湯にはいったら誰でも火傷するよ。

   それをいうなら、今まであったかいところにいた人が

   急に冷水に入ったら、心臓に悪いとか、

   むしろそっちだろ。

学生 おお。

店長 感心するなよ!

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