森のトイレに興味津々 『冒険図鑑 野外で生活するために』
いまの娘の年頃(5歳)に私が大好きだった遊びはいくつかありますが、思い出すだけで心が騒ぐのが”原始人ごっこ”。
庭の隅の植栽が直角に交わる角地は、頭上にほどよく枝葉が被さって屋根になり、まるで秘密基地のようでした。そこで必ず行われるのは、”ごはんづくり”。
たきぎ的な枝を集めてこんもりとさせ、Y字型の枝を2本、両脇に刺す。Y字とY字に真っ直ぐな枝を一本渡すと、豚の丸焼き用のグリルが完成。豚の丸焼きそのものは、参加者の目にだけ映っています。焼けた肉は、ギャートルズ(我々世代ならわかるであろう、原始人アニメ)さながら、骨を持ってワイルドにむしゃぶり食らう。ああ、おいしかったなあ・・・。
アニメ「南の島のフローネ」の真似をしたり、少し大きくなると「ロビンソン・クルーソー漂流記」に夢中になったり。双眼鏡と地図を持って宝探し、庭にテントを張って寝る、いわゆるアウトドアや冒険、といったものが大好きでした。
それから三十ウン年。現代っ子の娘も地図や虫眼鏡を愛し、小さな家の中で「ふむふむ、ここに○○があるぞ」とやっています。そこで思わず渡したのが「冒険図鑑」です。イラストが豊富ですが、全ての漢字に振り仮名があるわけではないので、(ちょーっと早かったかな?)とドキドキ。しかし、読めない字なんてなんのその、雲の形から天気を読み、足跡から動物を発見し、汚い水は砂利でろ過する・・・そんな野趣たっぷりの内容に、とりこになってしまいました。図鑑なのに写真が一点もない、というのも感動的です。細かく丁寧で、ところどころに微かなユーモアがある絵は、写真よりもよほど「冒険」心を掻き立てます。
娘がなぜか気に入ったのが、トイレの作り方。何度も「見て、見て」とページを開いて持ってきます。木の枝にトイレットペーパーをかける、布で壁を作って木札に「使用中」、「空き」と印す、用を足した後に杉の枝を被せる、などの工夫が、彼女の何かをくすぐったようです。トイレでは当たり前に水が流れて、全てを消し去ってくれることに慣れている現代っ子には、ぜひとも流れていかない「モノ」の実際を、良い面悪い面含めて、知ってほしいものです。。
冒険やアウトドアといった入り口から、自然の中で暮らすことの面白さと難しさ、感覚を研ぎ澄まして生きることの大切さを少しずつ感じ取り、対応を身につけていくことができれば、地球で生きていく力になるのではないでしょうか。毎日の生活で、実際に役立つ場面は少ないかもしれません。でも、頭の中にこの本を入れておけば、身近な自然の見え方が変わるし、いざと言うときには思いがけない助けになるんじゃないかな、と思っています。
2016.4.21
文・さとうち藍/絵・松岡達英『冒険図鑑 野外で生活するために』(福音館書店)
※10年後の私からのコメント
いまでも私の愛読書。情報量が多いので、適当に開いたページでも「あれ、こんなこと書いてあった」と、またフムフム(すぐ忘れる、という噂もある)。思春期に入って冒険気分が減ってきた娘だが、またこの本を開くときは来るだろうか。
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