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幕間話002_玉座の花(中編1)

***
「何度目の月だったか。もう、忘れてしまったなぁ。」
頭上にやって来た十三の月を遠目に見ながら、ふと思う。

某月六日、宵の時。
天の川を閉じ込めたような髪をなびかせて、彼女は辺りを見渡していた。
入口から見える、近くの川の水面は月光を反射して。
今や吹き抜け状態の天井も、今は静かな光の受け皿となっている。
城として栄えていた頃の面影は消え、残された石造りの壁や階段は、その役目を終えて眠りについているかのよう。
誰も来ない。時代に呑まれて、いずれ死にゆく場所でしかない。
だからこそ、この場所の時の流れは、あまりにもゆっくりだ。

(この景色を見るのも、もう飽きを通り越してしまったわ。)

それでも、確かに時というのが流れていることは、彼女にもわかる。
彼女のいる「部屋」らしき場所は、差し込む日の光がまばらだというのに、少しだけ花が咲くようになった。
此処に辿り着いた頃は苔もなかったのに。

「今年も、また咲いたね。」
それを伝えたい相手はもういない。

ーー私のうけた、代償のせいで。

***
その昔、この地域一帯がまだ多少栄えていた頃のこと。
城の主人が亡くなって、このお城には誰も住まなくなった。
もともと厳かな雰囲気城であったことや、近くに川があってあまり人が来ない場所にあったこともあり、その後も人が近付くことはほとんどなかった。

城に人が住まなくなって、いくつかの季節が廻った後、
その地域一帯で、とあるうわさが流れた。

「あのお城、最近人が出入りしてるんだって。」
「えっ、誰も使わなくなってだいぶ時間たってるって聞いてるけど」
「そうそう。建物が古くなってきてるし、普通は行かないでしょ。でもさ、なんか噂を小耳に挟んじゃってさ。」
「どんな内容?」
「あのお城さ、誰もいないのは知ってるでしょ?
それはね、今は神様がお住みになられてるかららしいの。
神様に贈り物を渡すと、贈り物の大きさに合わせてお願いごとか幸せを届けてくれるんだって!」
「ほんと?」
「うん!!向かいのお兄さんが贈り物を持って、妹の病気を直してってお願いしに行ったみたい」
「確かにナオミちゃんの病気、だいぶ良くなってたよね。でも、ほんとかな・・・タイミングが偶然だっただけなんじゃないの?」
「どうなんだろ。私は怖くていけないけど。」
「確かに、あそこだけ近付いちゃいけないみたいな雰囲気あるもんね。近付くにも、あの川渡らなきゃいけないし。」
「うーん、確かにそうだね。わたしたちにはまだ早いかーー!」
「大人になったら挑戦できるかもね。」

こんな会話が街のいろいろなところで聞けるから、
あたしの耳にも勿論入ってきた。

不治に近い病気が治ったり、研究員が何倍もの富を築きあげたり。
憑物でも落ちたかのような顔つきになって帰ってきて、
みんなが口をそろえて「お城で願いがかなった」と言う。
願いの大小はあれど、うわさ話は瞬く間に広がっていき・・・・・・
我も叶えようとお城に向かう人もいるほどにホットな話題となった。

まあ、その頃には願いが叶わなかった場合や仕事に支障が出るほど検証にのめり込む人がいたりして、街で一部立ち入りの規制がかかったけれども。

あたしはどうしても叶えたかった夢のため、人目を盗んで城へと向かった。


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