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どうしても何かがこころの中のうごめきを、ゆっくりとかき混ぜている。まだ手のひらがいまの半分くらいの大きさしかなかった頃に、すきとおった水のバケツに絵の具のひかりを泳がせて、混ざりきらないきいろと、あおいろの境界線に、おれの意識の焦点がぴったりとくっついていた。
いま外に出て、少し冷たい空気の中をゆうゆうと切りながら歩き出しても、見えるものはなにかむかしと違くて、その違うことすらも忘れてしまうようになっている。
ただ、青い空とペンキでぬられた建築物の、境界線に気がついて、なにかを思い出すためにポケットに入った、小さなスマホで平面に写真といわれる収め方をした。
何にもなれないそれをみて、自分の忘れてしまったものとは重なり合わない、その嫌悪感がいまの自分をうごかしている。

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