鉄、

ぼわーんとしているあたまの中は、

高速で鉄を研磨するグラインダーの音が離れない。

なにかを解き放ちたいみたいに、一直線に突き抜ける鉄の悲鳴が、右と左の耳の穴をわざと選んで通り抜けている。

重い鉄板は、高速で回るグラインダーの刃と相反して、火花を空に散らしながらゆっくりと削れていく。

それはわたしの意識の時間の軸を、ゆらりと歪め、視界の焦点をぼんやりとズラしている。

現実を忘れた私の瞼は脳みそと繋がることも忘れてしまって、瞳が乾いてしまった時の対応の仕方までもを、思い出せない。

ふとその場を離れて水を飲もうかと、静かな部屋へ入ってみると、大きな筒で突かれた大きな鐘みたいにぼわーんと何かを反響しようとしている自分の耳とあたまの中に気がついた。

そこで初めて耳の疲れを、さっきまで休んでいた脳の中の大事なところが察知して、近くの椅子に腰をかけた。

コポコポと冷たい水を体の中に流し込んで、私はすこしの間、瞼を閉じた。

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