「アカペラ」(山本文緒著)読後感


アカペラの表題で、アカペラ、ソリチュード、ネロリの3編の中編小説(著者曰く)が入っている。新潮文庫としては追悼版で6刷りである。暮れから読み始めたが、家にいることが多く、電車の中だけで読む自分としては、けっこう時間がかかってしまった。
面白く読めたという意味では、自分より20年から30年以上若い人の置かれた立場や気持ちやが、「そうだね。面白いね。大変だね。」という感じで読めたから。20代30代に読むのとは、随分感じ方が違うだろうなと思った。
アカペラは、カラオケ好きのおじいちゃんが認知症のような言われ方もして、母親といるとおじいちゃんがおかしくなることを知っている中学3年生のたまこさん(通称タマ)の話。芸術的センスもあって、服飾店でアルバイトでも評価されている。それなりに対応してくれる担任の先生や、母親が離婚する予定の父親など、設定も面白く読んだ。自分の位置は、当然「じいじ」であるから、自分の孫との関係で考えたりして、かわいい孫が面白い。
ソリチュードも面白い設定。家を父親と喧嘩して飛び出すことになって、行方知らずであった春一というダメ男が主人公。父親が死んだことが伝わり、葬式には間に合わなかったものの、少しして帰ってきた。母親は子供のために貯金していた通帳ごと渡して、また親子になる。父親というのも、付き合っていたいとこ美緒の子供に対してはいろいろ買い与えてくれていた。そんな春一に子供もなつく。小学生ながら、周りの大人の立場などもよくわかっている。結末は、ハッピーエンドの確証はないが、もしかしたら、従妹と籍をいれるようなことになったかも、という感じで孤独なままに終わる。場所が銚子で、風力発電や灯台も登場するのが、最近訪れたこともあって状況が浮かぶ。
ネロリというのは、アロマで媚薬らしい。30過ぎの社長秘書(愛人とのうわさがあるが、そういうわけでもない)をやってるお姉ちゃんと、ずーっと面倒をみている障害を持つ弟ヒデちゃんと、その弟に恋をしてるかもしれない、あたしココアちゃんは10代。お姉ちゃんが自分の話として書いたり、ココアちゃんが自分の話として書いたりしていて、山本文緒らしい一人称の使い方も味がある。お姉ちゃんが、会社を辞める段になって、惚れられた男性から求婚されて、その後の家族関係を考えているが、男性の母親から「息子がのぼせて居るだけだから」と言われて、あっさり結婚をあきらめる。そんな家族関係がもう少し続くような話。
なんとなく、まだやめられず、今日また、山本文緒の文庫を1冊買ってしまった。

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