区切りをつける、ということ

何かに区切りをつける。
もちろん、厳密には区切れるものではなくて、連綿としているものなのだろうが。
もし、概念とは、連綿としたものの中にシワを作る作業だとすれば、僕は喜んでシワを作ろう。

今日、尾崎を聞いた。
最近は漠然と「もう、いいんじゃないか」という考えが、頭に蔓延っていた。
あまりに寂しく、あまりに虚しく、急に意味がないような気がしてたまらなかったからだ。

俺は誤魔化していた。
それは下手に考えたり、現実の全てをありのまま解釈しようとすると、気が狂いそうだったからだ。

俺はアウレリウスとエピクテトスの教えに従うことにした。
「君の自然本性は理性を働かせることで、君の義務は本性に従って生きることだ」というストア派の命題に従うということだ。

俺はどうして、こんなにも生き延びたのかと考えていた。
何もかも俺の前から過ぎ去っていくし、失くすことばかりだ、と考えていた。
そうなのにも関わらず、俺は頭の中で架空のゴールラインを設定していた。

あの環境で、やれるまであと3年だな。

俺は度々自分に尋ねた。あとどれくらいだ?と
それは、5年、3年、1年半、1年、半年と徐々に短くなっていった。

じゃあ、それが本当に明日だと思えるようになって、それがなんなんだと思わざるを得ない。
だって、それは架空のゴールラインで、もう切ることのできないゴールテープだと予め知っているから!

しかし、どうしようもなく、俺が習慣に取り組み、食事管理を始め、運動習慣、筋トレに取り組み、マインドフルネスに取り組んだ。
その本当の目的は、架空のゴールに再び戻ることを想定していた。
結局のところ、俺は結局過去を取り戻したかっただけなんだ。

昔に「Mr.インクレティブル」という映画があった。
その登場人物の一人が、過去のヒーローとして活躍していた自分を懐かしみ、戻ろう戻ろうとしていた。

それは他者から見れば、滑稽だ。
なぜなら、「過去には戻れない」ということを誰しも知っているからだ!
だけれども、僕にはそう思えなくて、どこか他人事ではなかった。
それは自分にとっても、ある程度了承できるところがあったからだ。

俺はどうして今日まで生き延びてきたのか。
煩悶とさせながら、尾崎を聞いて、ジムでレッグプレスマシーンの重量を3桁に上げる。

漠然と、俺は目の前で死にゆく人のことを思い出した。
俺は結局、まだ歩けるし、まだ飯が食べられるということだ。
少なくとも、この半年、俺が「生きなくちゃいけない」と強く思ったのは、そういう間柄の出来事だった。

それにストア派の論理を反復させていた。
「もし、君がドアを開けるにしても、それは煙が邪魔で仕方ないような理由で部屋を出なければならない」と。

つまり、生きるということは行為の連続だ。
また、物事は全て生成して消滅するのが通りだ。
そして、人が消滅するということも、また生きるということの行為の一つでしかない。

だから、君がもしドアを開けるならば、それは君の自然本性に適わなくてはいけない。ということだ。

俺はまだ自分の自然本性に従ってドアを開けるということが、どういうことなのかはわからないし、そうでないしろ、それは今ではないことは分かった。
「もし、君が追放される時ならば追放されればいい。しかし、今は食事の時間だ」ということになる。

俺は自分の義務(ふさわしい行為)が何なのかを自問しながら、とにかく食事管理と散歩と筋トレと睡眠を、行い続けた。
河合隼雄が書いていたように、「凡人なので、努力ぐらいしかすることがない」からだ。

俺はまだきっと他人から見れば、しょうもないことで生きながらえている。

それは、衰弱していく人が俺に信頼をよせて「任せる」と言った、あの夜のように。
人は誰でも、どんな時でも、生きているだけで誰かに何かを伝え得ると、信じているからだ。

だって、もし人がどんな時でも、尊厳と精神的な自由を保持し続けられるのだとすれば、いや、もし、尊厳とありとあらゆる自由を誰かに奪われてしまうとすれば、それはとても悲しいことだから!

あとは、「俺が生きていると、誰かが俺のことを面白いと思ってくれる」からという言葉をいまだに信じている。
俺がもしドアを開けたなら、俺が自分から抜け出せずに、死に至る病に冒され続けるしかないのなら、それは昔に関わったあの人たちに申し訳がないからだ。

俺は誰かにとって、生きているだけで、(不遜な言い方だが)希望になれるようなロールモデルに、ならなくちゃいけないと、そう言い聞かせている。
だから、俺はクールで、穏やかで、時には熱くなれるような、そんな人間で在り続ける必要がある。

俺が今日まで反復した行動を続けているのは、そんなしょうもない理由なんだ。
そして、俺は切れることのないゴールテープを勝手に設定していて、そして勝手に一人で寂しくなっているだけなんだ。

ああ、俺はどうしようもなく惨めだ。
欲求はいつまで経っても満たされることはない。
俺が何を求めているのか、そんなことはとっくに知っていた。知っていたんだ。

それでも、この気持ちは無視しちゃいけない気がする。
だから、ここ最近は、どうしようもなく寂しくて、孤独で、虚無さが纏わりついていたんだ。

それでも、俺が本当に欲しかったものは、もうどこにもない。
もう手にはいらない。もうどこにもない。そんなことは分かっているんだ。

それでも、概念にはシワをつけなければ、いけない。

『何一つ確かなものなど見つからなくても 心の弱さに負けないように立ち向かうんだ』

『さあ 走り続けよう 叫び続けよう 求め続けよう この果てしない生きる輝きを』

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