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昭和な(?)熱血親父パットン ――冷蔵庫殴打事件から考える

※ 以下は2019年8月7日に執筆したものであり、情報も執筆時点のものです。

 右手の第5中手手根関節脱臼骨折、らしいですねパットン。詳細は各スポーツ紙に譲りますが、国吉が最近調子が良いとはいえ右腕救援陣はやや不安、投手の疲労が蓄積するこの夏場の離脱、とベイスターズのブルペンにとっては痛すぎる事件です。

 しかも、苛立ちのあまりベンチの冷蔵庫を殴った結果という、ぐうの音も出ないほど完全な自業自得。私もテレビ中継でその様子を観ていましたが、まず手の怪我を案じるより先に「冷蔵庫が壊れる!!」と言ってしまったほど、思いっきり強くボッコボコに殴っていました。その気迫に押されたのか、近くに座るスタッフも思わず見て見ぬ振りしてましたからね。結果、壊れたのはパットンの右手でしたが。冷蔵庫は何ともなかったそうです。冷蔵庫強い。

 ベイスターズにとって結構な危機的事件ですが、例えば「パットンはクビにしてほしい」などと、激しく非難するファンはあまりいない気がします。ちょっと頭冷やせよと呆れたり、離脱を悲しんだりする声はありますが、それはパットンを頼る思いの裏返しとも言える。

 まあ前にも球審にキレて退場したこともあるパットンだしな……と思いつつ私も呆れてはいるのですが、「今後こういうことがないようにして、怪我も治して早くチームに戻ってきてほしい」と強く願っています。それは、パットンが優秀な助っ人外国人だからというだけではありません。

 来日して間もない頃に、お揃いのTシャツをアメリカから取り寄せて投手陣に配る。ブルペンの結束を強めるために、CS前に救援陣にヒゲを伸ばすことを呼びかける(童顔の山﨑康晃なども似合わないヒゲを伸ばすことに)。

 若い投手が多いブルペンをまとめるリーダーシップに関するエピソードは、ファンの間で有名です。しかし私にとって一番印象深いのは、2017年シーズン初頭、不調でクローザーの座を奪われた山﨑康晃に対する振る舞いです。

 康晃からクローザーの座を奪ったのは、他でもなくパットンでした。その後パットンもセーブ失敗から、クローザーの役割を康晃に返すこととなります。そして復活を遂げセーブを勝ち取った康晃の元に、真っ先に駆け寄って抱擁したのも、他でもなくパットンでした。

 球団公式ドキュメンタリー『FOR REAL』(2017年版)の中で、パットンはこう振り返ります。

「あの日彼に伝えたかったのは『僕たちみんなが支えているよ』ということ」

「クローザーというポジションから外れたのは力不足なのではなく 苦しんでいたから少し時間が必要だっただけ」

「彼が自分自身の力で戻ってきてセーブを挙げたのは本当にすごいこと」

「僕はただ彼を勇気付けて自信を取り戻してほしかった」

 このDVDを観たキャプテン筒香嘉智は、こう発言しています。

「あのDVDのなかでチームのことを語ったのはパットンと監督だけ。びっくりするくらいに、みんな自分のことしか言っていなかった。それは矢印が自分にしか向いていないからでしょう。パットンはクローザーをやりたいはずなのに、(山﨑)康晃のことを話していた。それはチームメイトに矢印が向き、康晃に対して敬意があるからなんですよ」

(横浜DeNAベイスターズ 2018オフィシャルイヤーマガジン)

 経験が浅く、自分のことで精いっぱいな選手が多かった当時のチームの中で、他の選手も思いやれるパットンは貴重な存在であり、そんな彼をキャプテンが頼りにしていたことが窺えます。

 パットンをあまり知らない人からは、「すぐに激昂する外国人選手」と思われているかもしれません。その一面をすべて否定することはできませんが、ベイスターズ、特に投手陣の中においては精神的支柱の一人と言えるでしょう(だからこそ、今回のようなことはしてほしくなかったなとも思いますが)。

 球団公式フリーペーパー『BLUE PRINT』(2019年第3号)のインタビューで彼は、自分はブルペンの父親的存在であることを自認しています。

 熱くて、頼りになって、家族思いだけどちょっと怒りっぽいお父さん。うーん、外国人選手ですがなんだか昭和的な、星飛雄馬のお父さんのような父親像が浮かび上がります。

 私自身はパットンと同い年ですが、「お父さん反省してね」「でも寂しいから早く帰ってきてね」と、娘のような気持ちになってきてしまいました。同じような思いを抱えているファンは、きっと私だけではないと思います。

 他にも、何気に康晃に匹敵するほどtwitterを使いこなしている一面や、奥さんのtwitterもめちゃくちゃ面白いということも紹介したかったのですが、キリがないのでこの辺で……。