【創作】怖さの切りどころがおかしくて怖い話(オチ)

突然、佐藤に呼び出された。喫茶店でコーヒーを頼むと佐藤は低音ボイスで話を始めた。
「ちょっと田中、聞いて、とっておきの怖い話があるの」
佐藤の話は、たいした話でないことが多いが、今日は、いつもと異なり、とっておきオーラが出ていた。自信作っぽい。
「実は、とあるお店でポイントカードを作ったんだけど」
話の入りが、怪談ではなく漫談のようだが、適当にうなずき話を促す。
「へぇ~で?」
「そこで、アプリにも会員証を連携できるって言われて、その場で手続きしたのね。そうすると、カードとアプリで2つ会員証ができる訳よ」
何の話をしているのかと思うも、これからどう怖い話になるのか興味が湧いてきた。
「それで?」
「カードとアプリ、どちらか1つ持てばいいのだけど。その日は、たまたま2つ持ち歩いていたの。スマホに通信速度がかかっていて、アプリを開けなさそうだったから」
ますます怖い話から遠ざかるようだが、一発逆転ホームランを期待してみる。
「そう~それで?」
「そのポイントカードが使えるお店に行ったのね。そしたら、財布に入っていたはずのポイントカードがない、ない。どこかに落としたらしい」
三振もしたらしい。急にお腹が空いてきた。メニューを見るとアールグレイとクッキーのセットが500円とある。コーヒーを単品ではなく、最初からこちらを頼めば良かったと後悔した。あくびをし、退屈アピールを試みるも佐藤は話を続ける。
「家にもカードがなくて、やっぱりどこかに落としたんだなって。しばらく放置していたの。そしたら、誰かがカードを拾ってくれたみたいで」
見当もつかない。どう転んでも怖い話にならない。ただ、カードを落として拾ってもらっただけの話だ。
「食べ物、頼んでもいい?」
佐藤は、田中の注文を遮った。
「ちょっと、ここから話が加速するから。なんで、誰かが拾ったかっていうのが分かったかって言うと。その誰かが私のカードを拾って、商品を買い、せっせとポイントを貯めてるの。知らない間に、私のアプリ内のポイント数が増えている訳よ」
風向きが変わった、微風程度だが。
「え?何のために」
「分からない。拾ったカードなのに自分のカードと思っているのか、何だか分からないのだけど。しかも、結構の量を買っているから、めちゃくちゃポイントが勝手に増えていく」
確かに怖い話といえば、怖い話だが、そこまで突き抜けた感がなかったのは言うまでもない。
「で?」
「ここから、さらに話は加速するのだけど。どんどんポイントだけ貯まっていく訳よ。だからそのポイントを使おうと思って、お店に行ったのね。アプリ内のポイントを使って大量にダイエット食品を買ってみたの」
ポイントが勝手に貯まるのがピークかと思いきや、そこではないらしい。
「話、そろそろ終わる?」
「いくよー怖い話。なんと、そのダイエット食品がめちゃくちゃ美味しいの。今のダイエット食品ってこんなに美味しいのっていうくらい箸が進むのよ。ポイントがたんまりあるから、いっぱい交換して、毎日、過剰摂取していたら、6キロ太ったっていう話。怖い、6キロだよ。あー怖い」
「そこ?」

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【(佐藤の)怖さの切りどころがおかしくて怖い話】

おわり




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