ベネズエラの雪

カーロスへ

『ベネズエラ、雪降りません』
パンチドランカーと雪
パンチドランカーの背中に
降り頻る雪

カーロス、
そのひとりのパンチドランカーの
彼の背中に降り頻っている
粉雪の白さ、はかなさよ

雪は舞い落ちてゆくその人の
受けた、いたみとかなしみを
知っているのか
ただ包むように、かばうように
肩へ背中へ頭へ頬へと
降り頻る雪の子どもたちは
彼の頬に染みついた
涙のにおいも
知っているだろうか

カーロスへ
なぜあなたは日本に
舞い戻って来たの?
矢吹との闘いの記憶を辿って
あなたが燃え尽きた
あの矢吹との試合が懐かしくて

それとも
『ベネズエラ、雪降りません』
あの夜あなたは矢吹の前で
サンタクロース姿で
はしゃぎながら
舞い落ちる粉雪に向かって
シャドウボクシングしていた
それは楽しそうに
幼い少年のように

ベネズエラへは帰らずに
だから日本に戻って来たのは
「また雪と
 ボクシングがしたかったからさ」
そう答えるあなたの笑い声が
何処か遠く降り頻る雪の街の片隅に
聴こえてきそうです

だから今も俺は
降り頻る雪の中に立つと
ついシャドウボクシング
してしまう癖が、抜けないんだよ、と

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