白木葉子へ

呼び捨てをお許し下さい
なぜなら
矢吹丈は
林屋の紀ちゃんを「紀ちゃん」と呼び
あなたのことを「葉子」と
呼び捨てにしたから

あの夜真っ白な灰になった
血だらけの
ジョーのグローブを受け取った
あなたの胸は
真紅のバラ色に染まりましたか?

あたかもあなたが
あなたの青春のすべてを捧げた
激しくも一途なまでに一途過ぎた
そして昭和に似合い過ぎた
あの100%完全にプラトニックな
ジョーへの愛の炎にも負けないほどに

下町の向日葵のような紀ちゃんに比して
どうしても高嶺のバラで
あらねばならなかったあなたが
なぜかあんな不良小僧のジョーを
愛したばかりに
あなたまでもジョーとともに
真っ白な灰になってしまったけれど

それがあなたの何よりの
望みであったというのなら
何も後悔など、ありはしない

若き日の燃える愛は
かくも美しく気高く
あなたはまっすぐに余りにもまっすぐに
ジョーを愛した
ジョーを愛していた、あなたは
やっぱり高嶺の、孤高のバラでした

そしてそんなあなたの愛のバラが
永久に散らずに有り続けるために
だから、あの物語は
ジョーが真っ白な灰になった
それから後の話は、ないのです

矢吹丈は
林屋の紀ちゃんを「紀ちゃん」と呼び
白木葉子を「葉子」と呼び捨てにした
『葉子、葉子はいるか?』※
『ここにいるわ、矢吹くん』※
あなたを「葉子」、と呼んだ


※『あしたのジョー』ラストシーンより
矢吹丈と白木葉子の台詞です

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