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(詩)野良犬

鯨や北極熊が絶滅することを
気にする人はいても

野良犬が絶滅したことを
かえりみる人はいない

とぼとぼ、とぼとぼ雨の中を
腹を空かした
今はもう幻の野良犬を捜して
傘も差さず街を歩けば

幻の足音と幻の遠吠えが今も
失われた街の片隅で懐かしそうに
吠えている声が聴こえた気がした

いつだったろう
最後に
野良犬に追いかけられたのは
いつだったろう
野良犬に
最後に吠えられたのは

いつだったろう
そして
野良犬がいなくなったことを
何とも思わなくなったのは
野良犬がいないことをいや
野良犬がいたことを

忘れてしまったのは


とぼとぼ、とぼとぼ雨の中を
何度も何度も
追っ払っても付いてきた
びしょぬれの
あの野良犬は

あの夜
そして
とぼとぼ、とぼとぼ
あのまま一匹否ひとり
どこへ、歩いて行ったろう

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