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海の絵葉書 送りたい 何も書かずに 送りたい 住所も名前も郵便番号も ただ、まっ白なままの 海の絵葉書 そして風に乗せて 送りたい 風という名の 郵便ポストへ投函したい あなたへと 海の絵葉書 送りたい 耳をあてれば 波の音が聴こえてきそうな 海辺にたたずむ少女の顔が わたしに似ている、と 思ってくれそうな ようく見ていると なんだか少女が 笑っているような 海の絵葉書 送りたい 送りたい さようなら、のかわりに
雲が 山のまねをして 山の上で 雪山の振りをしている すぐに溶けてしまうくせに すぐに雲は風に吹かれ この大空を流れ去るのみ 海に来たら 空を見上げなくて良い 海の中に 空が隠れているから 海に来たら空の青さを 感じなくても良い 海の中に 青がいっぱいに 広がっているから だから 泣きそうになったら 海を見れば良い 代わりに 海が泣いてくれるから 木も汗をかく 風が吹くたび 気持ちいい、と笑っている 風の中で笑っています 木陰に入ったら いつも汗っかきだった き
雪を知らない蝉時雨 蝉時雨を知らない雪 季節と季節の隙間を すれちがい ずっとすれちがい とわに めぐり会うこともない 向日葵を見たことのない ペンギンと ペンギンを見たことのない 向日葵 氷と陸との あっちとこっちは遠すぎて 見つめ合うことも できないまま ただ地球はまわり 歳月は過ぎ 恋人たちは別れ、花は枯れ かなしみはそのまんま さびしさもそのまんま みんな、涙もほほえみも そのまんまで ただ闇に消えてゆくだけ もしも歳月が ひとつの心なら 雪と蝉と 心の中
あの夏は あの夏の日は何処へ行ったのと きみは言うけど あの夏なんて もう何処にもないんだよ 時は一瞬にして消滅し 人は老いてゆくばかり そしてやがて人もまた消え去るのみ 愚かに愚かな人間たちだけが 今日もお祭り騒ぎで ひと時の欲望を貪っているだけ あの夏は あの夏の日は 緑と風の彼方 ほら今きみの瞳に映っている あの青い空と きみの涙の中に眠っている そっと眠っているから ただじっと抱きしめていよう ただじっと きみのそしてかなしみが終わるまで
空が海なら 波は風 風の音が潮騒 わたしは波打ち際になろう わたしの海辺に佇むウミネコは わたしのために その寂しい声で鳴いてくれるでしょうか わたしという小舟が やがて水平線の彼方に消える頃 ウミネコの鳴く声は 夕映えの風と戯れていてほしい
海の見えない場所では 空を海と思えばいいのだ そもそも 空は海のふるさとなのだから 気体か液体かだけのちがい 涙のふるさとが海で 海のふるさとが空で だから すきとおった青い空を見ると 人は泣きたくなる 涙が 生まれ故郷をなつかしがって しかたがないのだ