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(詩集)きみの夢に届くまで

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詩の数が多いので、厳選しました。っても多い?
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2024年2月の記事一覧

(詩)ぼくの夢

ぼくには夢がないと きみは不満そうに言うけど ぼくの夢は 今のぼく、ぼくの暮らし ぼくの一分一秒 今のぼくになるために ぼくは生まれて来た そしてきみとめぐり会うため きみと生きる一分一秒は きみといる今この一瞬が ずっと夢見ていた ぼくの夢だったから Baby, don't cry きみの涙も きみの笑顔も みんなぼくの夢だから

(詩)ギターも夢見る

まだ宅配便もなかった時代 その一本のギターは 東京の販売店から東京駅に運ばれ それからガタゴト、ガタゴト それは長い長い道のりを レールの上を コンテナの隅に載せられ揺られ 熊本駅の荷物預かり所まで 遥々独りぼっちで旅して来たのであった そこで待つこと数日 とある土曜日の晴れた午後 ギターの前に現れたのは 午前中で終わった中学校の教室を まっ直ぐに飛び出し息を切らしてやって来た 詰襟姿のひとりの男子中学生 少年とギターは互いに無口に 眩しい顔で見詰め合うのだった 出会い

(詩)玉ねぎの涙

玉ねぎ切って流した涙でも たしかに涙には ちがいないから 泣き終わった後の すがすがしさは ほかの理由で流した 涙の時と同じだった だから今度 なぜだかわからず 涙が出てきた時は きっと心のどこかに 隠しておいた玉ねぎ うっかり 切ってしまったからだと 思おう なんとなく あなたのことが 原因だという気はしても あなたの面影の せいにはせず あなたの面影の せいでは決してなく そうやって ひとつひとつ 心の中の玉ねぎ 切ってゆこう そしていつか あなたのことを思

(詩)石

わたしは石になり この世界を見ている せわしなく動く 生きものたちは 動くものだけが 生きものだと信じている たえず 変化してゆくものだけが 進化するのだと 信じて疑わない たえず変化し たえず 滅びゆくものたちからすれば 永遠はだから ただのことば遊びに すぎないらしい そして今日も 夢をなくした少年が ため息まじりに わたしを一蹴り けれど そのおかげでわたしは 陽あたりのいい場所に 転がって 今日は一日 気持ちのいい風に吹かれ 日向ぼっこしていました そのお

(詩)卒業

さようならはいのり きみ、彼、彼女 おまえ、あんた、あなた さようならは いのり、です ぼく、おれ、あたし あたい、わたし さようならは 春、夏、秋、冬 朝も昼も夜も 海も山もふるさとも、都会も あいしてる すき あいしてた すき、でした さようならはおわりじゃなく がんばって いや、絶対がんばらない いや、いやだよ いやだって、ば いつか、どこかで 約束、なんて言わないで いつまでも、どこまでも そばにいて さよならは 別れの言葉じゃなく お世

(詩)セーラー服を脱いでも

いつも電車で見かけるきみも どうやら今年卒業で 最後の期末テストが終わってから 卒業式までは セーラー服を脱いで 近くのケーキ屋で バイトしているらしい ためしにのぞいてみたら その店にも制服があって きみにはとても似合っていたけど はじめて見た時は思わず ドキッとしてしまった なんだかきみが急に 大人になってしまったようで ぼくひとりだけ 取り残されてしまうような それで思わず 店の中に入ってしまったけど ただケーキを注文するのが やっとだった うつむいたまま は