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(詩集)きみの夢に届くまで

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詩の数が多いので、厳選しました。っても多い?
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2022年9月の記事一覧

ずぶ濡れの野良猫

抱きしめてあげる 大丈夫 俺も濡れているから 土砂降りの中で あっためて、あげる 大丈夫だってば 俺だって泥だらけ 傘を持たない者同士なら 仲良く、やれるさ

ピエロ

人生なんて お芝居に過ぎないと 知っている人は 人を笑わせるのが好きさ 死んだら帰る場所は みんな、それぞれ それぞれの旅に出るから 人生は 取り返しのつかない冗談だと 気付いた時から ピエロになりたい 顔で笑って、心で泣いて 顔で笑わせて、 心で泣かせたい そんなピエロに 人生は一瞬の夢

(詩)引き潮

わたしが死んでも 誰も悲しまない生き方で 歩いてきたから 嫌われ者、憎まれっ子で いやな奴! あんなの、さっさと 死ねばいいのに、ってね おかげで 誰にも辛い思いをさせずに 済みそうだ だから 何も心配することはない だから こんな生き方も 悪くないよね 誰かを泣かせる位なら 誰かを笑わせて死にたい そんな生き方も 悪くないだろう……。 そう、地球に問いかけて見た わたしが死んだ後も ずっと生き続ける地球 ずっと 回転し続ける地球へと いつか わたしの死させ 受け入

地動説

(※ちょい長めです) この星が 回っているということ 朝ぼくが目を覚まし 夜またぼくが 眠りにつくということ その平凡な 日常の繰り返しの中で またいつかぼくは去り またいつかぼくは生まれ またいつかきみと別れ またいつかきみと巡り会う その永い永い歳月の中で この星が 回っているということ 晴れていた空が曇り 雨が降り始めること 雨が上がり また空が晴れること そんな繰り返しの中でも 時には空に虹もかかり 生命は生まれ そして ある晴れた夏の日の午後に いっぴき

エスカレータ

人波から少し離れて エスカレータの 一番後ろに乗るのが好きさ 人込みの中で わざとゆっくり歩くのも 何人の人と ぶつかるか数えながら 何人の人と ぶつかったら きみに会えるだろう 東京で暮らす人の数だけ ぶつかれば会えるかな でもおんなじ人と ぶつかったりするから やっぱりきみには 会えそうにない ……都会なんて、そんなものさ 男は 好きな女の子がいないと 詩が書けない 詩人はたえず 誰かを好きでいなきゃ 詩が書けないから きみに飽きた後 ぼくは 誰を好きになろう そ

ひみつの国

その子は 誰からも相手にされず いつも ひとりで遊んでいた そうしているうちに その子は ぼくたちには見えない世界が 見えるようになって 鳥や花や虫たちと 話ができるようになった 空気中にただよう 微生物の姿さえ 見えるようになり それどころか すべてのものに 感情があることを発見し そうなると いつどこにいても 毎日楽しくて しかたがなくなり その子はもう ひとりでいても さびしくなくなって いつもうれしそうに 笑ってばかりいた けれど誰もその子に どうしてそ

(詩)九月に渋谷の

九月に渋谷の風俗店で 女神に会った 家なき者を追い払った 宮下公園にも 彼岸の華は咲くのですね 天国ですか、それとも地獄 ここは いいえ、東京都渋谷区です 東横線の渋谷駅に 切符もなしに入ろうとして 自動改札機に遮断された 実はその晩 そのホームから 飛び降りるつもりで いたのだけれど その前にどうしても 無性に女に会いたくなり 誰でもいいからと つい渋谷の風俗店に入ったら そこにわたしよりもっと かなしい目をした風俗嬢がいて わたしは金で彼女を 買ったことへの罪

さようならをするために

波止場にひとりたたずんで 来ない船を待っていたい いつまでも待っていたい そして いつまでも、ひとり 待っていたい さようならと港の関係 港には さようならがよく似合う さようならには 港がよく似合う どれだけの人がいくど さよならのことばをかわしたか さようならと 港の関係を理解するために わたしの涙は まだ、足りないらしい 雨上がりの港に 傘を忘れてきた 雨がもう 上がっていたので うっかり 忘れてきてしまった 雨上がりの港に あなたからもらった 傘なのに