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【3分落語】Adoと握手


ここは両国広小路、賑やかな盛り場に付きものなのは、茶屋に飲み屋に髪結い出床、そして怪しい見世物小屋でございます。

呼込「さあ大人気のAdo、Adoと握手が出来るよ。こんな機会は二度と訪れない。さあAdoと握手をしよう。これっきり、これっきりの機会だよお」
男「おい、本当にAdoと握手が出来るのかい」
呼込「嘘偽りは申しません。さあAdoと握手がしたい人は50文の木戸銭を払った払った」
男「おう、じゃあ50文払うよ。Adoと握手をさせてくれ」
呼込「おありがとうございます。ではこちらへ」
男「…って、何だいこの穴は。Adoなんかいねえじゃねえか」
呼込「この部屋の中にAdoがいますんで穴に手を突っ込んで握手をどうぞ」
男「そんなもの、中にいるのがAdoかどうかわからねえだろう」
呼込「中にいるのは天地神明に誓って確かにAdoでございます。さあさ握手をどうぞ」
男「そうなのかい?…(手を伸ばす)…うわっ!…(怪訝な顔で握手し、抜いた手を見つめる)」
呼込「はい、ありがとうございました。お帰りはこちらでございます」

帰った男は友人にいきさつを話します。

男「今日はよう、両国橋の出店で、50文払って、Adoと握手をしてきたよ」
友「へえ。そりゃあ良かったなあ」
男「ところがAdoは壁の向こうだから、本当にAdoなのかわからねえ」
友「握手した感じはどうだったんだい?」
男「それがよぉ、ものすげえぶっとい手でよ、汗ばんでやがるんだよ。ありゃ本当にAdoだったんだかどうなんだか」
友「ああ、そりゃAdoはAdoでも、幕下十枚目の安曇川あどがわだな」

(終)