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この人の閾 保坂和志

場を借りた随想である。小田原に用のある人に会いに行くが留守なので思いついた大学時代の映画サークルの一つ年上の女性で結婚している先輩の家にゆき、草むしりを手伝い、息子や犬と関わりながらビールを飲みながら無駄話をするというストーリー。そこでなされる会話は、彼女の夫の仕事への向き合いだったり、主婦というものの時間の過ごし方であったり、それらが学生時代の話し方を思い出しながら、うっすらと哲学的に考えたりするものになっている。この小説の面白さの所以をあえて言えば、なぜそんな話題であるのか、なぜそんな安定感のない中途半端な会話の場なのかという作意にあろう。

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