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ちくわについて

ちくわの穴はなぜあるのだろう。
それはちくわがちくわであるために、というのを暫定的な答えにしておこう。
ちくわを作るには、芯に練り物を巻きつけて加熱するので製造工程上必須であるとも言えるし、
穴がなければもはやちくわではない(蒲鉾か何か)とも言える。
穴があるから、煮炊きするにも火が通りやすいし、その穴に何かを詰めれば簡単に料理にもなって、パンに詰めればちくわパンにもなる、というのは実用面から見たものだが、それもまた大事なこと。
ちくわは穴があるからちくわなのだ。

2022年3月の山中湖遠征後、七瀬のぞみさんが学業のためライブに出演できない期間が続き、4月になって8月に卒業すること、8月開催の卒業ライブまでのステージには出演しないことが発表された。あわせて、5月からの前人未踏ツアーなどは新メンバー1名を加えた新体制で行われることも発表される。
その新メンバー川本空さんは、4月中旬のライブで紹介され、4月末の木曜定期公演第二部でデビュー。翌日からの遠征やツアーにも参加(デビュー3日後の前人未踏ツアー名古屋公演ではほぼ全曲披露)、そしてデビュー前日に発表されたTIFへの初出場とメインステージ争奪戦への参加、という怒涛の日々がはじまる。
それらの活躍については、ここでは述べない。

8月に更新されたタイトル未定公式HPのプロフィールによると、彼女は「自身の愛称を「ちくわ」と名乗るが、その理由は所属事務所もお客さんからの質問でも明かされる事はなく謎に包まれてる。」とのこと。正解はないとすれば、さまざまな解釈も許されているのだろう。

臨床心理学者であるとともに日本人の特質について大きな示唆を残した河合隼雄氏は、日本の特徴として中空構造を挙げている。それは、中心となるものがないということで、「何者でもない」というタイトル未定のコンセプトにむしろ近いが、これはちくわであるとも言える。中空とは何もないようでいて、何もないわけではなく、何ものをも含み得る、そんな場である。

遠い空に五つ星。
タイトル未定は5人だけれど、ステージに立つのは4人であることが続いていたそのとき、七瀬のぞみさんの不在を川本空さんが引き継ぐことは自然なことだと思うけれど、のんちゃんの不在を穴とさせずに、かつ不在は不在のまま抱えてそのパートを担当し見事にやり切ったこと、その川本空ちゃんの在り方はちくわそのものだなあ、と感じている。
それは彼女のもの凄い努力があってのことだけれど、タイトル未定のメンバーとしてということに加え、のんちゃんパートを受け持つものとして、しっかり自分のパートを守らなければ、という強い思いがなければ、あれほどのステージは作れなかったのではないか、そんなことも感じる。何しろ2つのツアーを無事終えるとともにTIFではメインステージにまで行ったのだから、その貢献がいかに大きかったことか。
そんなことは全然感じさせない、そんな人ではあるけれども、だからこそその功績を讃えておきたい。

日頃は隠れていて見えない中空は、時に表に出るときがある。
TIFの前日、飛行機の遅延によりメンバーが予定されていたライブに間に合わず、たまたま別便で先に到着していた川本空ちゃんだけがステージに立つという出来事があった。お客さんとして来ていたかすみ草とステラの吉川実紅さんにもステージに出てもらい「からあげとやきいも」というコンビを即席で結成して「夏のオレンジ」を披露(前月の沖縄遠征の際にタイトル未定とかすみ草とステラで楽曲交換していた縁あってのこと)。その後、きのホ。さん、fishbowlさんで繋いでもらうも結局間に合わず、最後は実紅さんも含め出演者全員でもう一度の「夏のオレンジ」を演ったのだが、空ちゃんはほぼ全パートを一人で歌い踊って煽っていたし、何よりフロアを楽しませていた。この胆力に驚いた人も多かろう(わたしもその一人)。
これは自分以外のメンバーが不在という大きな中空が思いがけず生まれたなかで、もともとの中空構造に秘められていた力が出たものだと思っている。これがちくわの穴が持つ力の、恐らくは一端。これからどんな活躍を見せてくれるのか、目が離せない存在である。
本人はちくわよりも断然からあげ派だそうだけれども。

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