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【伝えたい】 歪み🇫🇷

目にした光景 1

年はいくつ?と聞くと、ポカンとする少年。

ボートを使って海を渡ったんだ、と答えるのは13歳の男の子。

友人は皆、戦争へ行き亡くなったと語る男性。

The future is deadだからね、と吐き捨てるように口にするのは、これから長い、長い人生を生きなければならない女の子。

明日の住処を、この瞬間の飢餓を、心配しなければならない状況にある子供達。 

ひたすらに涙するお母さん。

英語を教えてくれてありがとう! と笑顔を浮かべているのは50歳、2児の子を持つ父。

すべて2週間の滞在で目にした光景です。

イギリス、フランスの国境間にて、難民支援の活動をしているCare4Calaisに参加した2週間の記録になります。

フランス カレー市

フランス北部沿岸に位置するカレー市に2週間滞在しました。イギリスとの国境において一番近い距離に位置する港町です。ヨーロッパで問題になっている難民の方はこの街を経由してイギリスを目指します。

難民の方達の目的は、ただ1つ。新しい生活を始めることのできる場所を見つけることです。

都市における岩の数々

カレー市には、たくさんの岩が散見されます。これらは、難民の方が滞在していたことを示します。大きな岩が街のあちこちにみられる異質な光景が当たり前のように広がります。警察の方が排除を行った後、2度と戻ってこられないようクレーンを使用して岩を置いていきます。カレー市はそんな街です。

Care4calais

ボランティア活動に参加しました。活動内容は大きく分けて2つです。

➀倉庫に送られてきた寄附物資の仕分け。(衣類、キャンプ道具、衛生道具等々、寄付されたものの状態を確認。)実際に配布をする準備をします。➁実際の敷地に出向いて、難民の方達へのドネーションの配布とサービス(飲み物の提供や充電の提供、ゲームや英語の勉強、散髪など多岐にわたります。)を行います。

仕分けの作業

寒さを凌ぐための衣服を配布する準備の様子です。手袋、マフラー、ニット帽、くつしたを1セットとして袋に詰めていきます。午後にこれらを配布します。

配布準備の様子
段ボールだらけ
貯蔵庫。スナック、コーヒー、その他諸々

難民の方との会話

日本語で、「難民」と聞くと良いイメージが浮かばないかもしれません。難民という言葉に含まれる’問題感’に加えて、何か怖そうな人々を想像するかもしれません。実際には優しい方達がほとんどなのですが。

カレー市に滞在している難民の方たちは、歴史に、社会に、国に疎外されてフランスへやってきた人たちです。

ボランティア活動の中で、歴史が目の前に立ち上がる感覚を何度も経験しました。

目の前に広がる光景を肌が捉えて、脳に伝わり、感情へ消化されていくのを体で感じました。

アブとの会話

フランスに来て、友達ができました。スーダン出身のアブです。彼は愛嬌があって、おちゃらけていて、優しさがそのまま人間の形をしているみたいな人です。みんなアブのことが大好きです。

アブはサッカーが大好きで、プレミアリーグの話を2人でよくしていました。そんな中でも、彼と交わした最初の会話が忘れられません。

アブ:「あなたはどこから来たの?」

私:「日本だよ、アブはスーダンなんだよね、聞いたよ」
と答えると、

アブは「いいなぁ日本。じゃあ、あなたは頭がいいんだね。君の暮らしがココだとすると(彼は右手を高く掲げて、)僕たちスーダンの暮らしはこのあたりだな。(彼は左手を低くかざす。)」

と真顔で答える。

みんなから愛されている彼の発言に対して、驚きを隠せませんでした。彼が普段そんなことを思っているのかという驚きと、彼の表情から伝わる深刻さにです。

「暮らしに上も下もないし、日本人、スーダン人の間に序列なんか存在しないでしょ」

彼は、いつもと同じ優しい声で、

「じゃあ、日本でこの光景を見たことがある?」

と目の前に広がる難民キャンプを指さします。


*1


13+3+2+2+1は?

miss agedという言葉。

私は、聞いたことがありませんでした。その言葉を初めて聞いた時も、言葉の意味をうまく理解することができませんでした。ボランティアに参加してからよく聞くようになった言葉です。難民の方たちは、自分たちの年を正確に把握していないことが多くあります。

How old are you?と聞いて

すんなりと答えが返ってこない。

計算を始めます。10本の手の指を使って、計算を始めるのです。それぞれの国に滞在した年数を数える行為です。自国に13年。〇〇に2年。△△に2年。□□に1年といったように。

4年という期間を聞いて、思い浮かべるものはありますか?

大学の4年間ですか?

恋人と付き合っている期間ですか?

新しく始めた趣味の年数ですか?

社会人になってからの期間ですか?

難民の方達にとっては、生きる場所を見つけるための’移動の期間’になりうるのです。

シリア出身の子との会話

13歳の子供に「1人なの? 」と尋ねると、

「1人で来たんだ」と答えが返ってくる。

「友達は一緒だけどね。お父さんとお母さんが僕をイギリスへ避難させることを決めたんだ。両親はシリアにいる。兄弟も後から来ることになると思う。」
        ・
        ・
        ・
「海をどうやって渡ったの?」

「ボートで渡ってきたんだ。怖かったんだ。死ぬかもしれないって思ったんだ。」と彼は当時の状況を思い出しながら答えてくれました。

Googleの画像検索で見せてくれるそのボートは、信じられないほど簡易なものでした。

画像で見せてくれたもの チュニジアーイタリア間を渡った時に使ったものだそうです。


追悼式の様子

CommemorAction
亡くなった方々の名前
掲げられていたボードに書いてあった言葉

イギリス

「このトラックはイギリスに行くのか?それなら俺も連れて行け」
と笑いながら彼らは言う。

私は、どうしても、あなた達のジョークを笑えないよ。どういう気持ちで、笑えばいいの? 「ハハハ」の音程がわからない。

大型フェリーの一角の、椅子に座っているだけで、イギリスに入国できる私、と。フランス-イギリス間、約50キロの海峡を、小さなボートで近い未来に渡ろうとしている彼ら。

私たちの間にある差異は、生まれた場所が違うだけ。豊かな国で何不自由なく暮らすことができる日本と、物心ついた時から戦争が身近にあり、独裁者が実権を握っている国。スーダン、エリトリア、中東の国々から避難してきた彼ら。


堂々めぐり

「世界はあまりに広いから。綺麗も汚いも。輝かしいも陰も。全てをみて、経験してほしい。」

大学の講義で、教授が放った言葉を今でも忘れない。

T先生、世界の陰を見ました。その裏にある歴史も肌で感じました。

個人における問題も。社会における問題も。世界における問題も。

世界は十分に、正確に、機能しているのでしょうか?

私(たち)は自分の歩みについて、懐疑的でいることができているのだろうか?十分に早く走ることができているのだろうか?歩みを進められていたと思っていたことが、実は堂々巡りになっていやしないだろうか? これはいいこと、あれは正しいことだと思い込むことから逃れられているのだろうか? 考えているつもり、動けているつもりになって、走り回ることができていないのではないだろうか。しっかりと走りたい。着実に走りたい。転ぶことを積極的に受け入れたい。私(たち)は、十分に正確に走ることができているのだろうか?

日記

目にした光景 2

無邪気に遊ぶべき時期に、

明日の住処を、今この瞬間の飢餓を、心配しなければならない状況にある女の子の様子を見ると、心が張り裂けそうになりました。 

引きずりながら持ち歩いている人形。
ママにお腹が空いたと訴える姿。

昨日の夜、ボートを担いで海岸へ向かうと、フランス警察の方々が現れて、銃を何発か空に向かって発射させた後、閃光弾を2発投げられたと語るスリランカ出身の友達。

英語を教えてくれてありがとう! と言う、50歳、二児の子を持つ父の表情に浮かぶ純粋な笑顔。

英語の授業の様子 *2

私を見つけて、

「サラ!!調子はどうだい?」と駆けつけてくれるシリア出身の友達。

自分の生活のことで精一杯なはずなのに、

「あなたたちが僕たちをサポートしてくれるように、僕たちもあなたたちの手伝いがしたいのです」

と言って、手を貸してくれる難民の方たち。

今日、友達になった彼らが、明日海を渡ろうとして命を落とすかもしれない状況が目の前にあることを受け入れることができません。

社会の一部になること

目の前にある大きな問題に対して、私はどのように自己を規定すべきなのかがわかりません。私の立場はどうなのか? 自分も移民として(外部からの人間として)ここにいる。社会で起きている出来事に対して怒っている人々と、無知な自分。目の前で起こっていることが正しさからかけ離れていることは理解できるけれど、私自身どう向き合えばいいのかわからないところが正直なところです。

友人Aは、全ての行動が社会に対しての意思表示であるかのように高尚に振る舞う。彼女は「日本には行ってみたいけど、環境への配慮を考えると、、」と口にする。

友人Bは、「私、アマゾンは使わないの!」と高らかに声を上げて、自分の意思を表明する。彼女らにとって最も大切なのは、社会的正義と地球環境について考えること。世界の一部であるという矜持をもった彼らの行動は一貫している。

If you don't know, you don't know

だからこそ、知らなければならないのです。

目の前の大きな事象にぶつかっても、自身の未熟さにめげそうになっても、立ち向かわなければないのだと思います。私自身が、今ある社会の一部であること、歪んだ世界の一部であることを認めなければならないと強く思います。前も後ろも、右も左も見なければいけない。私たちはそうやって、より良い世界を求めて生きていくしかないと難民の方たち、ボランティアの方たちとの会話の中で感じました。


研究、制作頑張りたいと思います。


ボランティアの方々


エリトリア出身の方のネックレス

追記:
可能な限り、見た光景をありのまま伝えることを意識して書きました。政治的な思想や考えは、できる限り排除しながら書きました。書いては消して、書いては消して、を繰り返しましたが、不適切な表現、不快なものがあれば、コメントで教えていただけると助かります。

大学院の修士制作のテーマは、フランス・カレー市における難民の方と地域の方の共生における建築・都市デザインです。学部時代と違って、politicalな部分(フランスの政府がこの問題にどのように取り組んでいるのか、カレー市が公表している未来のあり方など)を考慮しなければならないこと、あなたの政治的な立場は? と聞かれることが多く、苦労しながら制作しています。そちらの方もここで共有できたらと思ってます。

参考文献

一覧の記事になります↓

引用
*1   https://www.businessinsider.com/calais-refugees-why-asylum-france-britain-2016-2

*2  https://www.instagram.com/p/B5seT9AjFF-/




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