vol.38 制作時間は毎日たった数分!?

ここ数年間で「自然を見て癒されたい〜」と思うようになりました。学生時代の私が聞いたらびっくりしそうです。前の私は、買い物へ出かけることが一番の癒し・ストレス発散になっていたからです。前から自然を見るのは好きですが、今はもっと自然を見たいと思うようになりました。少しずつ価値観が変わってきたのかも知れません。

自然を見る他にも、癒されたい時に見たい絵画があります。それがこちら!

ジョン・シンガー・サージェント
《カーネーション、リリー、リリー、ローズ》
1885–6年

百合、バラ、カーネーションに囲まれ、二人の女の子が提灯の灯りを灯す姿が幻想的で美しいです。白いドレスもファンタジーな世界観を演出しています。絵画は1740 × 1537 mmと人間の身長ほどの大きい作品です。絵画を目の前にすると、その世界観に入り込んだ感覚になります。

この作品は大学生の頃、ロンドンの美術館、テート・ブリテンで鑑賞しました。実物の作品はこの1回しか観たことがないのですが、数年経った今でも当時の展示風景を思い出せるほど、その幻想的な世界観が強く印象に残っています。

当時、作品の前にベンチがあったので、しばらくそこに座り、ぼーっと作品を眺めていました。展示室の天井も高く、人気もなかったので一人ぽつんと自然の中にいるような、開放的な気持ちになりました。いつかもう一度、テート・ブリテンでこの作品を観て癒されたいです。

絵が描ける時間はたったの数分!

この作品ができるまで長い道のりだったそうです。作者・サージェントが作品を描くことができた時間は、一日約2~20分。毎日たったの数分でした!

なぜかというと、この作品は黄昏時の特定の光を描いているからです。さらに限られた期間(9-11月)でしか描くことができませんでした。作品に描かれている二人の女の子は、サージェントの友人の娘です。9-11月頃、友人家族と過ごしたサージェントは、黄昏時の数分間、女の子たちに庭に立ってもらい絵を描きました。

サージェントは光を描く以外に、花を描くことにも一苦労しました。庭の花はずっと綺麗に咲いていないので、花が枯れてしまったら人工あるいは本物の花に植え替えたり…。こうしてサージェントは1885年と1886年の夏から秋にかけてコツコツ制作を続け、作品が完成しました。

作品は、幻想的な世界観でゆったりとした空間が流れているようにみえましたが、制作の裏側は時間との勝負だったのですね。毎日数分の制作時間&花の植え替え作業。かなり大変そうです。

テート美術館展が東京に!

現在《カーネーション、リリー、リリー、ローズ》を所有しているテート美術館の作品たちが、新国立美術館(東京・乃木坂)に展示されています!

残念ながら、私のお気に入りの《カーネーション、リリー、リリー、ローズ》は展示されていませんが、ターナーやジェームズ・タレルなど西洋絵画から現在アートまで新国立美術館で見ることができます。

今回の展覧会テーマは「光」だそうです。《カーネーション、リリー、リリー、ローズ》も黄昏時の光を捉えた作品なので、展覧会に出展している作品はどのように光を取り入れているか見るのが楽しみです。皆さんもぜひ展覧会に行ってみてください!


参考文献
Tate, 「Audio Description: Carnation, Lily, Lily, Rose」, <
https://www.tate.org.uk/art/artworks/sargent-carnation-lily-lily-rose-n01615/audio-description-carnation-lily-lily-rose>

Tate, 「How John Singer Sargent painted Carnation, Lily, Lily, Rose」<
https://www.tate.org.uk/art/artworks/sargent-carnation-lily-lily-rose-n01615/how-john-singer-sargent-painted-carnation-lily>

Tate, 「John Singer Sargent Carnation, Lily, Lily, Rose」https://www.tate.org.uk/art/artworks/sargent-carnation-lily-lily-rose-n01615

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