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「観察の練習」菅俊一/見えているのに見えていない

この公園の芝生は、どうしてこの部分だけがはげているのだろう。このキャッチコピーは、どんな前提条件をもって書かれたのだろう。この看板は、どうしてこんな場所に掲げられているのだろう。この既視感はなんだろう。等々。

本書では、著者が日常の中で「ちょっとした違和感」を覚えた風景を写真で提示し、次のページでその違和感の理由についての考えが述べられている。

つまり、読者のわたしたちも写真を見ながらその違和感についてを一緒に考え、世界を観察する練習ができるしくみになっている。

違和感を追いながら、自分の内に強烈に刷り込まれた「当たり前」に気づかされ、なにげない風景に隠された誰かしらの意図、創意工夫にハッとする。普段の自分が、いかに自分の見たいものだけを見ているのかを突きつけられる。

時には著者とはまったく違う部分に着目していたり、首を傾げたりしながら、掲載されている56個の事例を興味深く読み進めた。

 実際に観察を始めてみると、自然の秩序や市井の人々が生み出したささやかな工夫、多くの人たちによって積み重ねられた行為の痕跡など、この世界は面白いものに溢れていた。しかし、こういった面白いものは突然目の前に現れたのではなく、私が気づく前からもともとこの世界に存在していたのだ。観察をするたびに、自分はこんなに面白いものをこれまでずっと見過ごしてきたのかと反省を繰り返している。

「観察の練習」菅俊一 P.251

この世界は面白いもので満ちている。どこにでもあるような景色のなかに。なんでもないような日常のなかに。ただそれに気付いていないだけ。気付こうとしていないだけ。面白がろうとする心持ちが、眼差しが、自分の生きている世界をもっと豊かに面白くする。

生き方そのものに通ずる大事なことを再認識させてくれた一冊でした。

ちなみに本文の文字組みなど、ところどころに細やかでユニークな工夫が隠されていて、デザイン性も楽しめます。

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