le chaton fait un petit somme

 ふと、人の動く気配にシャルマンが意識を浮上させると、会話も途切れ手持ち無沙汰になったのか、テーブルに積まれた本のうち一冊を手に取り長椅子にかける青年が映る。ちらりと一瞬目が合うもののこちらの読書の邪魔をする気はないのか、そのまま何も言わずに本を開いた。昼過ぎの明るく物静かな空間の心地良さに機嫌を良くし、シャルマンはまた活字の海に沈む。
 ふと、どれほどの時間が経ったかと顔を上げると、今度はクッションを背もたれに長椅子に足を投げ出し本を読み耽る青年の姿が映る。どうやら気に入ったようで、真剣な表情で文字を追っている。淡く長いまつげの隙間から覗く春の空色の瞳は軽やかに紙面をなぞる。くつろいだ様子に、なかなか美しいものだな、とひとりごち、シャルマンは自身もまた読書を再開する。
 ふと、そろそろ飽きてきてはいないだろうかと手元から視線を移すと、船を漕ぐ青年の姿が映る。先程よりも深くクッションに沈んだ体が、間違いなく眠気に引きずられていると物語る。耐えずとも眠ってしまえばいいのにとしばし様子を見るが、それでも先が気になるらしく、紙面からは視線を外さない。目が滑らないように文字をなぞる手が少しずつ速度を落としていくのを微笑ましく思いながら、いつまで保つだろうか、と一つ楽しみを残して思考を切り替える。
 ふと、長椅子の鳴る音に意識を引き戻されそちらを見やると、青年がクッションに埋もれるように眠る姿が映る。本は随分読み進んだようだが、室内にも浸入してくる春の陽気には敵わなかったようだ。開いた本を支えていた手は、片方が椅子からこぼれ落ちてしまっている。
 開け放した窓からは鳥のさえずりと日差しの暖かさを乗せた風が入り込む。シャルマンは、今日はなかなか良い日のようだ、と笑いながら、膝に置いた本を閉じるとブランケットを取りに肘掛椅子から立ち上がった。のんびりとした仕草で、いつ閉じられてしまうかもわからない青年の読み差し丶丶丶丶に栞を落として行くのを忘れない。

タイトル日本語訳:子猫のうたた寝

2022.03.30 初稿
2024.02.11 加筆修正