朝焼けはまだ始まらない

「んん……、朝」
「私の子猫、起きだすには少し早いよ」
「おはようシャルマン。もう朝だ」
「今はまだ夜のものだ」
「でも、じきに日も昇る」
「君は私を置いて起きてしまうのかい。薄情な私の子猫」
「……」
「ほら、おいで。もう少し一緒に眠ろう。私を温めておくれ」
「……、仕方ないな」
「ふふ。ありがとう」
「どういたしまして」
「優しい君に、朝焼けの代わりにすてきな夢を見られるおまじないをかけてあげよう」
「なにそれ」
「君がこれからも私と眠りたくなる呪いと言ってもいい」
「……それは遠慮しておこうかな」
「おや、私とは眠りたくない? 反抗期かな」
「……もう十分だろ」
「……私のかわいい子猫、君ってやつは。侮れないな」
「いいから。もう一眠りするんだろ」
「うん」
「二度寝なんて久しぶりだ」
「こんなに甘美なものを味わわないなんて、君はストイックな男だな」
「そうだよ。俺はストイックなの」
「そんな男が私には抗えないなんて、最高の気分だ」
「……、うるさいな。おやすみ。早く寝て」
「うふふ。おやすみ、私のかわいい子猫ちゃん」

2022.05.03