おしゃべりと午睡

「君、今日はよく喋るね」
 ソファに寝そべりあくびを噛み殺した男がそう言うと、もともとそこに座っていたのに男に押しのけられ仕方なく空いたスペースに浅く腰掛けた青年はぴたりと固まり、黙る。その様子を面白そうに見つめ、男は片肘をついた。
「……ごめん。うるさかった?」
「いや、賑やかだなと思って」
 男はにこやかにそう言うも、眠たそうにまばたきを繰り返す。ほのかに涙を溜めた瞳がじわりと光を反射する。青年の輪郭をたどる視線は柔らかく穏やかだ。咎められているわけではないと理解しながらも、青年はその柔らかな視線から逃れるように顔を背けた。
「久しぶりに来たら止まらなくて。ごめん、うるさいし邪魔だよな」
「君がたくさん話しかけてくれるのは嬉しいよ」
 言いながら立ち上がろうとする青年の腕を掴み引き止めると、男は口元を押さえてあくびをまた一つ。
「でも、そうだな」
 さらに強く腕を引きバランスを崩した青年を抱き寄せると、胸に乗った青年の柔らかい髪を緩やかな手付きで掻き混ぜる。
「もうそろそろ寝かせてくれ」
 顔を赤らめて見上げる青年に視線を投げ、男は満足気に小さく鼻でため息をつき目を閉じた。こうなるともうしばらく動けない、と抱きとめられたままの青年は為すすべもなく、規則的に上下する胸に頬を預けながら体の緊張を解く。起きたら次はなにを話そう、とここ数日の出来事や関心事を思い浮かべながら、青年もそっとまつげを伏せた。

2021.10.07 初稿
2024.02.10 加筆修正