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北海道滝上農場【放牧たまごの学び】

 
 季節の変わり目になると、滝上農場の有精卵「放牧たまご」に、血の混じる血判や、びしゃびしゃに溶けてしまったような水様卵がみられます。また、赤玉の卵(殻が褐色の卵)に多く見られる特徴でもあります。 ごく稀に出血のひどい卵や、大きな塊が混入している卵があります。

 これは、鶏のストレスが影響した結果で、ケージ飼いや無精卵の平飼いよりも、有精卵に多く見られますが、オスを一緒に飼うことが要因になる、有精卵ならではの、メスのストレス増加が原因と言われていますね。

●有精卵ならではの特徴
 鶏は、序列がはっきりしている生き物で、特にオスと一緒に飼うことによりその配下で生活するメスたちの上下関係がはっきりと分かれます。縄張り争いや餌の取り合い、季節の変わり目による環境の変化、さらにオスをめぐる地位争いが加わり、弱い立場のメスの卵に多くみられる現象です。卵の外観から判別できないし、弱い立場のメス鶏が産んだ卵かどうかも判別できないので、食べようと割ったときになってはじめてわかる現象なので、なんとも対応のしようがないわけです。

 ●雌雄混合飼育ならではのストレス
 飼育する上では、このようなストレスを、なるべく受けないようにするために鶏舎の広さに対する飼育羽数や、えさの量などを気にかけながら飼育するのですが、季節の変わり目で、急な温度変化や突風による風の音など、いろいろな要因が重なったときに、出やすくなります。そういった意味では、鶏社会の力関係のみならず寛容の変化にも敏感な鶏ならではの、なにより平飼い雌雄混合飼育による影響なのです。

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 こういった現象は、消費者の皆さんに卵が届いたときには「古い卵がまざってる」「腐ってる」「飼い方が悪い」などの悪印象が大きくなりがちなので、有精卵は非効率でリスクが高いとされています。しかし、そのうえで私たちは、鶏本来の特性として、自然な環境での有精卵平飼い卵を優先しています。
 
●栄養価に差はない。だがしかし・・・。
 一昔前は有精卵のほうが栄養価が高いといわれていたこともありますが、実際は有精卵の栄養価に関しては優位性がないといわれるようになりました。ではなぜ、優位性の低い、リスクの高い有精卵を生ませ続けるのか、それは、一言でいえば、食べ物としての栄養価の優位性のみで判断すべきではないと考えているからにほかなりません。

放牧養鶏1

 卵は、本来、ヒナが生まれるべきものであり、その自然の生命サイクルの途中で私たち人間が食べています。このような命のサイクルを途絶えさせる「食べる」という行為の中で、生き物本来の複雑な現象や、一筋縄ではいかない管理の難しさを考え抜き、どうすればもっと良くなるのかと対応するなかで、実は、本当の学びがたくさんあることに気づかされます。

 そして、その現象や課題を隠すことなく、現実を知ってもらう工夫を続ける中で、体に必要な栄養を摂取すると同時に、心や頭の栄養になっていくものだと思っているわけです。

 私は、食べ物を生産する側でもあり、消費する側でもあります。

 だからこそ知りうる生命の複雑系を体感し学び、そのうえで真摯に対応し、隠すことなく、一緒になって適応する力を磨き、そのなかで鍛えぬき、生きるというバランスを見出していくことこそ、本当の循環型だと思っています。

鶏の解体WS


●隠さず、晒し、考える機会を止めない事
 この問題を軽減しようと思ったら、鶏小屋の中からオスを間引けば済みます。お客様に気持ちの悪い思いをさせなくても済みますし、経営のリスクも軽減できます。しかし、その「軽減策」は果たして正しいのでしょうか?
 

 全世界を巻き込んだコロナウィルス問題も、同じことが言えます。「本当の姿」を変える事、隠す事で、一見なかったかのように勘違いしている、いつの間にか、ないことが当たり前になって、本来の姿があらわになるとパニックになってしまう。これは、私たちの都合の良いものだけを見ようとする生活の単様性が、引き起こしているものとも言えます。


●命の事をちゃんと知りたければ、コロナウィルスからも学べる
 命の多層性、多様性、複雑性を知らないことによる突発的な嫌悪ではなく、知っているうえで、しっかりと対応していく心構えが大切で、それこそが自然の摂理であり、乗り越えていく人間の強さを取り戻す取り組みだと思います。不便をおかけすることもありますが、環境を変えていくという時代から、本来の環境を取り戻しながら、それに適応し対応していく時代になったという事を、コロナショックに学び、鶏の卵に教えられます。

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