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中国CSA(community supported Agriculture)レポート

【中国有機農家訪問レポート】
昨年11月と12月に中国北京市と、広州市を訪問し、現地の有機農家グループと交流を持ちました。また、交流するだけでなく、いま、新たな有機農業の大きな流れとなっているCSA(community supported Agriculture)農業の中国全国大会に、研究者の一人として参加しました。中国の農業に大きな変革が起きており、その流れを実際に見ることでアジア全体の農業が見えてきます。


●北京市郊外 Shared Harvest Farm 
 この農園は、世界中から注目されており、様々な国際会議などでも取り上げられ、途上国の有機農家と、アグリビジネスの新時代モデルとして話題になっています。代表はShi Yanさんという40代の女性です。彼女は大学卒業後、アメリカの有機農家で研修し、地域の農家と消費者が支えあうことで関係性を作り上げていく農業として知られているCSA農業を学びました。その後、中国に戻り、ふるさとで有機農家となり、都市市民に安全な農産物を届けるCSA農家として活動を始めたわけです。
 彼女は、その後活動を広げ、今中国全土で彼女を倣った形でCSA農家がどんどん増えています。彼女のグループは数百の消費者を会員にして、季節のセット野菜を中心に、様々な加工品、連携農家の農産物、またそれだけでなく、自然調味料からオーガニックコットンなども取り扱っています。それだけ幅広く、商材をそろえることで、今や、有機農家としての顔と、自然食品店のような流通を担う顔を持ち合わせています。

●中国三農問題を解決するためのCSA農業という挑戦
 中国のCSA農業は中国三農問題解決のための新しい取り組みとしてここ数年、急速に広がりつつあります。三農問題とは①農民②農村③農業といって、従事する人々の経済格差と山村荒廃問題、文化的保護などを指しています。そして、その解決策の先鋒に担ぎ上げられたのが、若者の帰村運動であり、帰村する若者の就農ビジネスモデルが、CSA農業なのです。
中国では食品の安全問題が深刻で、多くの富裕層が有機農産物を選ぶようになり、農家から直接農産物、加工品を買う人も増えました。その安全性を保障するのが、顔と顔の見える関係としての有機運動なのです。表示や国の基準に信用性が無いという不安が、なおさら有機農業の本質である生産者と消費者の関係性を構築していく上で、強い推進力になっているのです。つまり、不安社会前提だからこそ、有機農業が後押しされているという逆転現象が起きているといえます。

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●その広がりは中国全土へと
 そして、いま、日本、ヨーロッパ、アメリカで広がりつつあるCSAが中国では爆発的に増え、全国の若者が集まり有機農業に取り組むようになっているところまでの力強い広がりになっているのです。
 現在、中国31省のすべてにCSA組合が設立され、全国の農家グループは296団体にも上るようです。

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●中国の農業、農村改革
 中国CSAは基本、若手農業者の帰農斡旋とその生活を自立させるための農業者連携が一番の目的であり、帰村した若者が自立して農的資源を活用した仕事の創出を目指してCSAに参加しています。つまり、CSAは農業運動というより、ビジネスモデルになっているというのが現状です。世界で大きな取り組みになりつつあるCSA運動が、特に中国で拡大の一途をたどるのは、地域の食と農をとおした地方創生への期待と人と人が繋がるコミュニティー創出の可能性にビジネスチャンスを期待しているからだといえます。今、中国では国と地方自治体が力を合わせて農村と農家の生活の改善に力を注いており、その成果がCSA農業として日の目を浴びているといっても過言ではないでしょう。


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●翻って日本の農業は?
 日本の農業は衰退の一途をたどっており、有機農業においても世界的期待感や使命感をよそに、実際には広がりに停滞感が横たわっています。農業のような第一次産業は、やはり国の政策、方向性に大きく左右されるもので、農家の頑張りや流行だけでどうなるものではないのです。中国食品の危険性を指摘し、中国品を非難する風潮は根強いですが、翻って日本の農産物は本当に安全で、国は国民の生きる糧を考えて政策実行しているのか疑問を抱かざるを得ません。ここ数年の中国の農業への取り組みはとても参考になります。

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(左:飯尾 中央:Shi Yan氏 右:若手農家)

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