俺は演劇リボルバー 03 燐光群「カウラの班長会議」

#演劇 #劇評

記念すべきリボルバーの一回目、「カウラの班長会議」を観劇し終えた今、まるで温泉に入り過ぎて逆に疲れたみたいな高揚感と倦怠感に包まれている。

この清々しさ、心地よい疲れ、ランナーズハイとはこのことなのかもしれない。

実際、走った。渋谷の街を走りに走った。
会場は下北沢のザ・スズナリ。開演は19時。渋谷の職場をでたのが18時40分。青山通りで信号待ちのフェラーリをぶち抜き、宮益坂を駆け下り、SALEで賑わうヒカリエをくぐり抜ける。擦り切れた革靴と雨に濡れたアスファルトが脚の筋肉を余計に痛みつける。渋谷駅構内の大階段を前に、ふと我に戻る。

なにゆえに私は走るのか。

燐光群を観るためなのか。

鴨川てんしに会うためか。

               鴨川てんし

「走れ、リボルバー!」

岡本太郎の「明日の神話」を通り過ぎた時、てんしの声が聞こえた気がした。

井の頭線のホームにたどり着いたのが52分。GPSをオンにし、Googleマップでスズナリへの道をシミュレーション。南口のサインを頼りに、小田急が地下に潜ってわけわからなくなった下北沢の駅を爆走し、方向音痴の私が行こうとする方向とは真逆の方向を指示する「ぐぐる様」のご託宣に従った結果、あった。スズナリ。

チケットを無事もぎられた時には、ゴールのテープを切ったような達成感。
私の席がちゃんと用意されていることへの感謝。ほとばしる汗。生乾きの下着。狭い空間をパースを使って広く見せた木造のセット。バトンにぶら下がった灯体。隣の三つ編みの女の子。後ろに座った坂手洋二。

なにもかもが、そこは劇場だった。

息を整えながら思った。観劇は劇場に来る前から始まっている。残されたチケットの半券の数だけ、別々の物語を持った人々が交差する一点、それが劇場なのだ。

もはや、そこで上演された芝居については、多くを語るまい。

え、だめですか。ですよね。以下、ネタバレになるのでご注意を。


さくっとまとめると、第二次世界大戦中、オーストラリアのカウラにあった捕虜収容所にいた日本人捕虜1104名が集団脱走を企てたって話です。
で、オーストラリアはジュネーヴ条約に基づいて日本人捕虜を手厚く取り扱っていて、食事もわざわざ魚や米を出すし、野球やらせてたり、捕虜もまんざらじゃない生活をしていた。しかし「生きて虜囚の辱を受けず」という戦陣訓、つまり、捕虜として生きることは恥であり、捕虜であったという事実が知れたら日本に戻っても村八分にされる。日本人捕虜は存在しない、名誉の戦死を遂げてこそ日本人である、という思いが爆発した結果、脱走して死を選ぶという結論に至ったという心情が描かれます。

で、これをストレートプレイでやると芸がないので、オーストラリアの学生がカウラの日本人捕虜をテーマに映画を撮影している、という設定で入れ子構造にして、メタ化します。
外人=STRANGERの視点がこの作品の肝ですね。

なんであなたたちわざわざ死ににいくの? それがあなたの個人としての本当の気持ちですか?

オーストラリアの役者たちが、そういった普通の疑問を呈する存在として物語に同居します。
まあ、オーソドックスなブレヒト劇なんですけど、これがオーストラリアの役者だというのが素晴らしい。日本人捕虜を手厚く扱ったオーストラリア人と、オーストラリア人捕虜を虐殺した日本人という歴史的な対立構造も浮かび上がります。
クエスチョンマークの説得力が違うというか、説教臭さが緩和されるんですね。英語だからかもしれないけど。

物語の後半になると、過去と現代が混ざり合うような形になります。
物語のクライマックス、脱走決行の夜。自分に言い聞かせるようにお国のために散ることができることを誇りに思うことを独白したり、捕虜の生活で培った友情を讃え合ったり、ハイテンションな独白と会話が続いて緊張感もマックス。不意に銃声と共に脱走の合図の進撃ラッパが鳴り響き、咆哮と共に突撃していく捕虜たち……。

すると、「CUT! CUT!!」の一言と共に映画の撮影隊が入ってくる。映画はフィクションだから、彼らを行かせてはいけない。シナリオを史実から離して本当に自分たちが望む行動を彼らに取らせるべきだ、と話し合う撮影隊。じゃあ、もう一回出発前のシーンからやり直そう、となります。


え?


もう一回やんのかよ!

もう2時間超えてるよ!!!!


ということで、同じシーンをオーストラリア人がツッコミを入れながらやり直します。本当は家族に会いたいんでしょう?とか言いながら必死に押しとどめようとする。その結果、どのようなラストになったのかは実際観てのお楽しみということで。

まあ、跳ね返りますよね。今の日本の状況に。
原発の不都合な真実を隠し続けたり、あの手この手の詭弁で集団的自衛権に突き進むけど、お上の言うこと鵜呑みにしていたら悲劇を生むだけですよ、というクエスチョンを見事に突きつける坂手洋二の手法、見事です。おかげで、めっちゃ洗脳されました。レフトアローン!

「カウラの班長会議」東京公演は今日20日(日)まで。その後、神戸、名古屋、オーストラリア3公演(カウラ・キャンベラ・シドニー)も行われます。
役者さんたちがこの劇をやるために鍛えられている感があってとてもいいです。オーストラリアのSARAH JANE KELLYさんがとてもお美しい。

ということで、今回の収穫はこちら。

あと、すごく言いたいことあるんですけど、ちょっとオープンにするのはアレなんで以下有料にしますね。

次回はチラシ引の儀をとりおこないます。

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