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むかし・ぽーとぴあ




えずく喉をひっくりかえせばみごとな春の野になって、性差もなくこんだくしていたころのこと、思いだせるでしょう。ここは誰かの領土、統一された法で区切られてとても清潔。だからきみたちは愛、すらもその仕切りのなかにあるってこと忘れさせられてかんたんに愛しあったりする。温室にコンニャクの花を見にいったこと、覚えている? 人工的な春を保たれてようやく咲く花。人間の性も似たようなものだって、思ったけれど言わなかった。

(婚姻も、生殖も
ずっとだれかのおはなしだった
 むかし・ぽーとぴあ
 きみたちのなかには、もうない)

思い出の王国のなかにだけ正しいわたしのかたちがあって、言葉にするたびに歪むから、鏡はすべて壊してしまった。成長すればなんにでもなれるなんて、わかりやすい嘘だったのにね。育つにつれて、規律の重みで望まないかたちにととのえられて働かされている。時間は逆流しない。季節はずれの紫陽花を鳥たちが羽織って、秋の次に夏が来るような、王国はもう到来しない。むかし・ぽーとぴあ、器だけになったなまえをとなえて、輪郭がゆらぐ、わたし、こんだくして

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