セフレに向かって大泣きした話

今年の目標を早速1つ叶えた。人前で大泣きする、ということ。


子供の頃から、もともと、大泣きする方ではなかった。母に叱られたとき、「泣いてはいけない、お姉ちゃんなのだから」そう思った記憶が鮮明にある。泣くまいと奥歯を噛んだら、唇が震える。唇を震えさせまいと頬を固める、しかめ面にする。そんな顔を見て、母は笑った。
「ぶっさいく。泣きそうな顔をしてる時点で泣いてるのと同じ。」
そして、結局その言葉で泣いてしまうのだった。歪んだ顔は、たしかに不細工だったに違いない。

こっそり泣く大人に育った。
セックスだけをして悲しいとき
恋が叶って嬉しいとき
受験に落ちてつらいとき
みんなで遊んで解散したあとに切ないとき
こっそり泣いた。誰かが寝静まって隣で泣くこともあれば、ただひとりで泣いているときもある。
こっそり泣いていたほうが、人前で泣かずに済む。ずっと強さだと思ってきたが、急に疲れてしまった。

人前で泣かないからと言って泣いていることに変わりない。外側の強そうな自分と、内側の弱さとが嫌だ、というカッコつけた理由。

とりあえず今年は、人前で泣いてやろう。

泣くチャンスなんて、なかなかないだろう。と思いきや、案外すぐ来るものである。セフレとのお別れである。カッコつけた理由・長い過去の割に、悲惨過ぎて笑ってしまった。いや、実際は大泣きしたのだけど。

終わりにしよう。荷物を取りに行くために、家にむかう。今日が最後、と話しているだけに若干きまずい。LINEで事前に伝えてあるしなあ、今日はかっこよくササッと終わろうか、という気もしてくる。なにせ今日は生理だし。
「なんかお腹すかん?食べ物ないの」部屋の扉を開けた瞬間、自分の口から出てきた言葉にカッコよさの欠片もない。さらに新年なのが良くなかった。ミカン・数の子・牛しぐれ・卵焼き、実家から届いた数々。「これはさ、飲まずにおられんよね」「じゃあ俺、コンビニ行ってビール買ってくるわ」「じゃあエビスで。」「新年だねぇ〜」。運ばれる500ml×6缶。

いつ泣くんじゃ。

結論から言うと、なんで泣いてしまったのか、覚えてない。
1.5リットルを飲んだあたりでひざ枕をねだって「こっそり」泣き、ムクリと起きた瞬間、突如ないてしまったのだった。相手が怯むほどに。ボロンボロンと溢れる涙、いやごめんとくる謝罪にさらに止まらない涙、なんで泣くの?に余計に泣いてとまらない。
本気になっちゃったの?じゃあ答えられない。
泣く。
えっ、ちなみに俺のどこが好きだった?
泣く。
ごめんごめん。
泣く。
もうちょいのむ?
泣く。
乙女だねぇ〜。
泣く。
えっ!?まつげ取れてるよ????
泣く。

つけまつげが取れて、つけ直すも、のりが乾かず、ドライヤーの温風を直接に当てられ、目がカサカサになってしまうタイミングまで、泣いた。

そうして、今年の目標が1つ達成された。

なにはともあれ、まごうことなく、大泣きしたのだから。今まで一度も外さなかった、つけまつげが外れるほどに。

泣いている間、少しも優しくなかったな。いつもの方が優しい。
泣けば良くなる思っていたのだろうか、私は。泣くことを我慢しすぎて、泣くことに夢見すぎていたのかもしれない。恋に恋するように。

妙にスッキリして、そのあと5時間以上も居座り、雑談し続けた。

…………
………
…‥

ああ、泣くとたしかに爽快。

でも笑っちゃうほどに、なーんにも変わらなかったな。

センチメンタルな気持ちで、3本置いてある歯ブラシのうち、2本捨てたら、片方私のじゃなかったみたい。
片方は会社の後輩の、って絶対嘘でしょ?
2本とも私のだと思ってたから、ちょっと使っちゃったじゃん。

あーあ、次、泣くなら、笑い泣きにしよう。
泣くことへの憧れ、破れけり。

たまには大泣きするのも良いけれど。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?