やさしい言葉

昔から「言葉」が好きで、気に入った一文を見つけると、本の右上を少し折り曲げて何度も読み返せるようにしていた。

中学生の時には、空や星空の背景に甘いポエムが綴られている画像を母の携帯に何枚も保存した。(当時は携帯をもっていなかった)

最近は昔より言葉だけに触れることが少なくて「好きな本」という形になってしまったけれど、久しぶりに心が震える詩に出会った。

「祝婚歌」 吉野弘
二人が睦まじくいるためには
愚かでいるほうがいい
立派過ぎないほうがいい
立派過ぎることは
長持ちしないことだと
気づいているほうがいい
完璧をめざさないほうがいい
完璧なんて不自然なことだと
うそぶいているほうがいい
二人のうち どちらかが
ふざけているほうがいい
ずっこけているほうがいい
互いに非難することがあっても
非難できる資格が自分にあったかどうか
あとで疑わしくなるほうがいい
正しいことを言うときは
少しひかえめにするほうがいい
正しいことを言うときは
相手を傷つけやすいものだと
気づいているほうがいい
立派でありたいとか
正しくありたいとかいう
無理な緊張には色目を使わず
ゆったりゆたかに
光を浴びているほうがいい
健康で風に吹かれながら
生きていることのなつかしさに
ふと胸が熱くなる
そんな日があってもいい
そしてなぜ 胸が熱くなるのか
黙っていてもふたりには
わかるのであってほしい

なんて優しくてあたたかい詩なんだろう

こんな関係、とても素敵でいいなあと思った

私はいつもこれが正しいと言わんばかりの圧力で伝えてしまう。自分が正しいと主張するときは、どうしてもきつい口調になってしまうのは、誰しもに言えることかもしれない。だけれど、この詩のように謙虚で、控えめに言葉を選んで伝えることができたら穏やかな人間関係が築けるんだろうなあ。


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