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美術鑑賞 | ピーターラビット展

場所: 世田谷美術館
鑑賞日: 2022年3月
https://peter120.exhibit.jp/

世田谷美術館は田園都市線沿線の住宅街のなかに位置する市民に開かれた美術館。アンリ・ルソーなど「素朴派」の画家やアウトサイダーアートをコレクションするなど、正規の美術教育とは違う出自の美術を積極的に紹介してきた。
ピーターラビット展は、絵本作家ビアトリクス・ポターの生涯とピーターラビットがどのように世界中に広まっていったかの軌跡をたどる展覧会となっていた。公式サポーターに俳優・シンガーソングライターの松下洸平さんが就任したのも、朴訥とした役どころで子育て世代の女性を魅了し、雑誌などにイラストを載せるほどの画力の持ち主であるから、まさに適任と言えるだろう。音声ガイドでは、彼の優しい語りが会場の雰囲気ととてもマッチしていた。

ビアトリクスが最初に飼ったウサギ「ベンジャミン・バウンサー」のスケッチが日本画家が描くような素描で、最初の方に展示されていたのでてっきり少女時代に描いたものだと思っていたのだが、あとでカタログをみると20代の作品だった。ピーターラビットの絵本の自費出版に踏み切ったのは30代に入ってからで、ベストセラー絵本作家としてブレイクするのが30代後半。編集者のノーマンと恋に落ち、結婚の約束までするのだが、貴族階級のポター家は勤め人の男性と結婚することに反対していたというのだから驚きだ(しかし婚約後、ノーマンはすぐに病死するとのこと)。
家庭教師がついていたことでそれなりの教養は身につけていたようだが、同年代と切磋琢磨したり仕事のキャリアを積んで働く喜びを見出すこともなく、湖水地方の田園風景のなかで青年期を過ごしてきた女性の人生を想像し、自然の小動物とお友達になるしかないよな、と納得させられたのだった。ピーターラビット出版までにも、叔父の後押しがあってウサギを擬人化した挿絵の仕事をしていたようだが、見えている世界はずっと自然と小動物であったことには変わりない。
籠の中の人生でも、狭い世界なりに人は想像の翼を拡げることができるし、そうしてできた世界観が世界中の人々に愛されることだってあるのだとわかった展覧会だった。

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