ディスクレビュー:Plastic Tree『Plastic Tree』

出だしの一音目から優しく心に沁み込む音。
ここ数年のギスギスした世の中が音に反影されたように思った。
特筆すべきは、近年の曲の長さは短い方がいいという風潮に逆行するかのような各曲の長さ。全10曲中、4分超えの曲が8曲。うち6分超えの曲が3曲、そのうちの1曲でエンディングを飾る『夢落ち』はなんと9分48秒という10分にも迫る長さだ。反対に一番短い『シカバネーゼ』でも3分40秒。完全に風潮とは逆行している。でもこれを長いと感じるか短いと感じるかはあなた次第。
無論、わざと長くしているのではなく必要だからこの長さになったことは音を聴けばわかる。
「これがPlastic Treeの音なんだ」という強い信念も。
だからこそこのアルバムは『Plastic Tree』というセルフタイトルになったのだろう。
聴いていると海月のように音の海にプカプカとただよう、そんな感覚。聴いていて音楽セラピーのようなアルバム。世間の喧騒から切り離されたよう。
そんな音楽セラピーはエンディングの『夢落ち』で終わりを告げる。
〈始めから全部これは夢でした〉という衝撃の歌詞から、まるで閉店間際の店内に流れる『蛍の光』のように、楽しかった時間が全部終わっていってしまうような感覚。楽しかった時間が走馬灯のように流れていくようなアウトロ。
近年悲しい訃報が多いなか、音楽に人生をかけてきた人たちの、ひとつの集大成。

みんなでワイワイ盛り上がるのも音楽なら、こうやってじっくり音の世界にひたるのも音楽だ。
さあ、音の海へ出かけよう。


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