猫のファンサはすごい

猫のファンサはすごいという話1

猫のファンサはすごいという話2

猫のファンサはすごいという話3

 猫のファンサはすごい。きっと彼らは自分のことを好きな人間をわかっていて時折ファンサービスしてくれる。
 ぼく自身は猫を近くで見つめていると5分くらいで喉がいがいがしてきてしまうほどの猫アレルギーなので自分で猫を飼ったことはないけれど、お向かいさんが猫を飼っている。名前を知らないので勝手に「ねこ」と呼んでいる。
 いつも外に居るわけではないし、居ても素っ気ないことがほとんどだけど、それでもめげずに「ねーこー」と呼び続けていたら、それも自分が呼ばれる名前のひとつと認識してくれたのか「ねーこー」と呼ぶとしっぽをパタパタさせてくれるようになった。
 猫アレルギーが出てしまうといけないし、前に突然さわってしまって怒らせてしまったことがあるから、猫はこちらに近づいてこない。ぼくは道をはさんだ向こう側から呼びかける。
「ねーこー」
 するとしっぽをパタパタ。偶然かもしれないし勘違いかもしれないけれどうれしい。
「ねーこー」パタパタ。「ねーこー」パタパタ。
 それがぼくと猫のやりとりとも呼べないいつものやりとりだった。
 だけど今日はどうしてか、猫がこちらに近づいてきてくれた。ぼくはびっくりしてのけぞりそうになった。うれしかったけれど、様子が変だ。猫はぼくの背後に回り、死角に入った。そこではたと気づいた。ぼくがエコバッグの中に持っていたのはまぐろに鮭ハラスそしてサーモンと、どれも猫の好きそうな具材のおにぎりばかり。
「ダメだよ、あげられないよ」ぼくはそう思って立ち上がったら猫は逃げていってしまった。
 だけどぼくの持っていたおにぎりは漬けまぐろ、それもわさび入り。とても猫にはあげられない。それに何よりぼくの大事な食料なんだ。なんだか悲しくなってきた。
 これだけファンサしたんだからギャラをくれってことか。さすが猫様。
 けれどぼくは知っている。猫がそうやってファンサしてくれる時は、ぼくが前の晩にさみしさに押し潰されそうでもうやだ死にたいってベソベソしてた時だってことを。
 ぼくが「ただいま」と言っても家の中から「おかえり」と返ってきたことは一度もないけれど、もしかして猫はぼくがさみしいことをわかっているのかな。家に入る前にそんなことを思った。するとお向かいの家から「ニャア」という声が聞こえてきた気がしてぼくは泣きたくなった。

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これまでにも縦書きのテキスト画像をアップしてきましたが、テキスト画面でも画像をアップロードできることを知りませんでした。本当はこれまでもずっとそうしたかったんですがやり方をわかっていませんでした。何年noteやってんだというていたらく……。これからは縦書きの画像とテキストを同時にアップしていく所存です。


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