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【短編小説】こどもの日

「ゴールデンウィーク最高だね〜」

実家に帰ってきた私の娘は、リビングのソファに寝っ転がり猫のように体を伸ばしている。

「さとる君も実家に帰ってるの?」

「そう、結婚してからずっと二人でいたからね。ゴールデンウィークくらいはお互いの実家帰ろうってなったの。」

「あらそう。それならゆっくりしていってね。」

「はーい。ああずっと祝日だったら働かなくていいのにな〜。ってか今日ってなんの日だっけ?」

「こどもの日よ。私の子どもはこんなにも大きくなったけどね。ふふふ」

「うちはもう大人です〜。いつまでも子ども扱いしないでください〜。」

「なにを言ってるの。あなたは私の娘なんだからいくつになっても子どもよ。」
「じゃあ、お母さんだっておばちゃんの子どもだから子どもじゃん。」

「私は子を持つ親だから、子どもじゃないわよ。」

「じゃあ、うちも子どもじゃないね。」

「え?どういうこと?」


娘は立ち上がり、私の目の前に来て私の手を取る。

「できたの、赤ちゃん。」

そう言ってお腹に私の手を添えた。

まだ膨らんでいないお腹だけど、そこには新たな命の温度があった。

私はほぼ無意識に娘を抱きしめていた。
そして、ふとニュースでの豆知識コーナーの言葉を思い出す。

『こどもの日は、子どもの成長を祈る日として知られていますが、実は母親を慈しむ日でもあるんです。みなさん知ってましたか?』

私は娘を抱きしめたまま、涙を噛み締めながら言う。

「おめでとう。そしてありがとう。」

窓の外では強い風が吹き、鯉のぼりがはためく音がした。

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