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【短編小説】モールス信号

カンカンカン。

キーキーキー。

カンカンカン。

嫌な金属音がおしゃれなカレー屋で響き渡る。

僕は分かりやすく嫌な顔をして、音がする方を睨む。


不快な音を発する犯人は、淡い色のワンピースを着た清楚系の女性だった。

女性の目の前には、ブランド品を全身に纏った30代くらいのいかつい男がいた。

おそらくカップルだろうか。

僕は違和感を持った。

上品な若い女性と、いかつい下品な男。

そして、見た目は上品なのに下品な食べ方をする女性。


カンカンカン。

スプーンと器がぶつかる音がさらに強くなる。

キーキーキー。

カレールーを寄せる時に鳴る不快音。

そしてまた、カンカンカン。


妙に一定のリズムで鳴る音が鼓膜に残る。

それにしてもこのリズムどこかで聞いたような。

そうだ、モースル信号だ。

僕が中学生の時に、中二病な親友と覚えた最初の言葉。

『S.O.S』

助けての合図だ。

女性はきっと周りに必死に助けを求めているんだ。

僕は席を立ち、勇気を振り絞って女性を店から連れ出した。


結果、すべて僕の勘違いだった。

女性は単純にマナーが悪かっただけだった。

そのせいで、僕はいかつい彼氏に殴られそうになっている。

僕は心の中で大声で『S.O.S』と叫んだ。


ーおわりー


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